【倒産事例】電気通信工事のケース
平成13年に設立した電気通信工事業者であり、大手電気通信事業者から孫請けとして工事を受注し事業を行っていた株式会社Kが、2020年11月に事業を停止し、自己破産申請の準備を始めました。
中国・九州地方一円を商圏として、電話交換機の配線などの設備工事から、最近では携帯電話基地局の通信工事なども受注していた会社で、ピーク期といえる平成18年6月期の年間売上高は約3億円を計上するほど好調だったといえます。
しかし同業他社と競合激化となり、その後売上は低下していくこととなってしまいました。資材価格も高騰し外注費も負担が大きくなり、赤字が続きついに債務超過に転落することになったようです。
結果、2019年6月期の年間売上高は1億3千500万円になるなど、ピーク時の半分にも満たない売上となってしまいます。
最終的な決定打となったのは、2020年に感染が広がり様々な業界に影響を与えた新型コロナウイルス感染症です。
新型コロナの感染拡大により、受注は従来よりも低下してしまうという追い打ちをかける結果に。それでもコロナ関連の融資などを受け、何とか事業を続けていたようですが持ち直すことができず、自己破産申請に至ることとなりました。
電気通信という事業は、日常の生活や経済活動を支える上で、重要な社会インフラといえるため、工事を担う事業者も継続を図ることが要請されています。
しかしどれだけ事業を続けたいと考えても、新型コロナウイルス感染症の影響でかなわなくなってしまった事業者は後を絶ちません。
今回感染が拡大した新型コロナの影響は、サプライチェーン遅延から電気通信設備工事でも使用する機器・資材など部品の調達が遅れてしまうといった事態も引き起こしました。
機器などの納期が遅れ、工期内に工事を完成できないといった事態も発生させてしまったのです。
そして工期の延長だけでなく工事自体が停止してしまうことは、K社を含む電気通信工事業者にとって、仕事そのものを失ってしまうことになります。
電気通信工事事業の市場は基本的に建設投資の動向に左右される傾向にありますが、2011年以降は東日本大震災復興需要や民間投資回復などで増加傾向にありました。
さらに当初2020年開催が予定されていた東京オリンピックが関連し、建設需要は一気に高まったことに伴って電気通信工事の需要も高まったはずです。
赤字続き・債務超過という状態だったK社でも、この建設需要の高まりで持ち直すことができるのではないか?と期待したことでしょう。
しかし新型コロナウイルス感染症の影響により、本来であればあったはずの仕事がなくなり、今後は建設需要の落ち込みも想定されるようになりました。コロナが収束した後も、アフターコロナで建設投資に変化があらわれるとも考えられます。
何よりもコロナ禍で工事が遅れたことなどにより、資金繰りはさらに悪化し行き詰ってしまったことが決定的なダメージとなったと考えられます。
実際、電気通信工事は、スマートハウス関連などのIoT機器や5G(第5世代移動通信システム)など、近年注目が高まる分野の工事は増えつつあります。誰もがスマートフォンを手に持ち、手軽に情報発信可能な時代となりました。今後、移動体通信システムの重要度はさらに増していくことが予想されますし、技術革新も急速に進んでいるといえます。
そしてコロナ禍の今こそインターネットの役割が重要となり、テレワークやウェブ会議、オンライン授業などの導入でさらにその需要は高まっているといえるでしょう。
しかし需要の高まりで仕事は増えたとしても、工事を受注するためには機器の取り付けを行う電気工事や通信工事の技術者を確保しなければなりません。常に新しい知識を吸収しながら、技術を磨き工事を行える技術者を育てていなかなければならないといえます。
今対応できる技術者が限られているのなら、仕事を外注に委託することで対応しなければなりません。そのとき、手元にまとまった資金がなければ外注に委託することは難しくなりますし、それ以前に発注された仕事を請け負うこと自体ができなくなってしまいます。
需要はいくら大きくなっても、手元にお金がなければどうにもならない。そのような状況がK社でも発生し、結果として資金繰りを圧迫させ事業継続をあきらめなければならない事態へと追い込んでしまったのです。
さらにK社の場合、いくら仕事が増えたとしても、赤字続きと債務超過では今後銀行から融資を受けることも難しいなど、先の見通しが立たないと考えた上での決断でしょう。
コロナ関連の緊急融資など、K社も資金調達に活用してはいました。しかしそれだけでは減少してしまった売上分を補うには足らず、手元のお金が不十分という状況が続いてしまったようです。
新型コロナウイルス感染症の影響はまだ続き、いつ収束するのか目途も立っていません。仮に収束したとしても、アフターコロナの影響はまだまだ続くと考えられます。
コロナ禍でも耐えていくため、そしてアフターコロナに備えるためにも、手元の資金は十分な状態にしておくことが大切です。