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金融裁判事例

事案の見解

ファクタリングで架空債権が譲渡された事案の控訴審~東京高等裁判所令和2年(ネ)2146号 令和3年7月1日判決言い渡し

本件は、ファクタリングで架空債権が譲渡されたケースの控訴審です。

一審ではファクタリングを利用した会社とその代表者による不法行為が認められ、損害賠償が命じられました。架空債権のねつ造に関わった取引先の責任は否定されています。

控訴審は原審を一部変更する判決を下しました。

この記事では高等裁判所における判断の変更内容や理由をご説明します。

事案の概要

利用会社はファクタリング会社へ虚偽の債権を譲渡し、ファクタリング会社から2480万円の振り込み送金を受けました。

ファクタリング会社は「架空債権を提示されてだまされた」と主張し、ファクタリングの利用会社とその取引先、代表者らを「共同不法行為者」として提訴しました。

原審の被告はファクタリングの利用会社とその代表者、架空債権の第三債務者(利用会社の取引先)とその代表者の4名です。

原審はファクタリングの利用会社とその代表者は詐欺行為をしているので不法行為が成立すると判断しました。

一方、取引先には2480万円もの大金をだまし取る認識がなく予想もしていなかったものとして不法行為を否定しました。

また原審では、取引先とその代表者による「反訴」も提起されました。

取引先にしてみると、利用会社による詐欺行為にかかわっていないのに無理筋な裁判を起こされ、弁護士費用や精神的損害を被ったという主張です。

取引先は原告に対し239万9320円、取引先の代表者は294万9320円を請求しました。

原審の判断

原審は本訴請求のうち利用会社とその代表者に対する不法行為にもとづく損害賠償請求を認めましたが、その他の請求は反訴を含めて棄却しました。

ファクタリング利用会社への請求が認められた理由

ファクタリング利用会社とその代表者は自ら架空債権を示してファクタリング会社から2480万円をだまし取っています。明らかに詐欺が成立するので不法行為が成立すると認定されました。

取引先への請求が棄却された理由

取引先は「数十万円程度のさや抜きをする」とは聞いていましたが、数千万円もの詐取を行うとはまったく聞かされておらず予想もできない状態でした。よって共同不法行為は成立しないと判断されました。

取引先からの反訴が棄却された理由

本件で取引先は、利用会社から「数十万円程度のさや抜きをする」と聞かされており、少なくとも何らかの不法な行為を行うことを予期していたと考えられます。ファクタリング会社にしてみると、取引先にも何らかの責任が発生すると考えてもやむを得ない状況といえるでしょう。

よって提訴自体が不法行為とはいえず、ファクタリング会社に責任は発生しないと判断されました。

高等裁判所の判断

本件で控訴したのはファクタリング会社、控訴されたのは利用会社の代表者、取引先とその代表者の3名です。利用会社自身は控訴しませんでした。

高等裁判所の判断は以下のとおりです。

代表者の責任を否定

原審と同様、ファクタリング利用会社に不法行為が成立すると認定しました。利用会社は自ら率先して架空債権を示して2480万円もの金員を詐取しており、明らかに不法行為が成立するからです。

ただし利用会社の代表者の責任は否定しました。この点は原審が大きく変更された点です。

理由は本件ファクタリング契約が債権譲渡を仮装した金銭消費貸借契約であり、2480万円の交付は「不法原因給付」となるためです。

すなわち本件のファクタリング契約では、以下のような事情がありました。

  • 取引先が弁済しないときにはファクタリング会社が契約を無催告で解除できると定められていた
  • 利用会社が支払いをしなかったとき、公正証書を作成して代表者に連帯保証させた

上記のような事情からすると、ファクタリング会社は取引先による不払いリスクを負っていなかったといえます。このように、第三債務者の不払いリスクをファクタリング会社が負わない場合、一般的にファクタリング契約は金銭消費貸借契約と評価されます。

控訴人(原告)は貸金業登録もしないまま、利息制限法や出資法を大きく超える利率で被控訴人へ貸付を行っていたことになります。本件で設定された手数料を利息制限法に引き直すと、年利168.2%や205.83%でした。

無登録で高利息の貸付を行っていた控訴人には高度な違法性が認められ、不法な原因で交付した金員の返還を求める権利が認められないと判断されたのです。

よってファクタリング会社から利用会社の代表者に対する2480万円の請求が否定されました。

本件で利用会社自身は控訴しませんでしたが、もしも利用会社も一緒に控訴していれば、利用会社の責任も同様に否定されたと考えられます。

取引先らに対する請求は棄却

控訴人は取引先とその代表者に「共同不法行為が成立する」と主張して利用会社と連帯して2480万円の支払いを求めました。

しかし高裁も原審と同様、取引先やその代表者には高額な金員を詐取する認識も予測可能性もなかったと判断し、控訴人の請求を否定しました。

反訴は棄却

取引先とその代表者は控訴審においても「不法な裁判によって損害を受けた」として反訴しましたが、こちらについても原審と同様の理由で否定されました。

原審からの主な変更点

本件で、原審からの主な変更点は「利用会社の代表者への請求が棄却された」点です。

原審では不法原因給付の抗弁が認められませんでしたが、控訴審では不法原因給付によって請求権が否定されました。

控訴審は、ファクタリング会社が第三債務者の不払いリスクを負わず利用会社へ負担させた事実を重く受け止めたといえるでしょう。

たとえ架空債権が譲渡された事案であっても、不払いリスクを利用会社へ負わせると不法原因給付の理論が適用されうるという意味で、本件判決には大きな意義が認められます。

本件から学べること

架空債権を譲渡しても不法原因給付となりうる

まず架空債権が譲渡されたケースにおいても、ファクタリング会社からの請求が「不法原因給付」の理論によって封じられる可能性があることが重要です。

原審では「本件の請求はファクタリング契約の解除にもとづくものではなく、利用会社の違法性が極めて高い」ことを理由に不法原因給付を適用できないと判断しました。

しかし控訴審はそういった事情があってもファクタリング会社の違法性を重視し、不法原因給付の理論を適用しています。

ファクタリング契約で架空債権が譲渡された場合、裁判所によって判断は分かれるとしても「不法原因給付が適用される可能性がある」ことが明らかになったといえます。

不法原因給付が認定されると、ファクタリング会社は架空債権を提示されてだまされたにもかかわらず、損害金の取り戻しができなくなってしまいます。ファクタリング契約においては、決して利用会社に不払いリスクを負わせる内容にすべきではありません。

架空債権譲渡はリスクが高い

次に、利用会社や取引先にとって架空債権の譲渡はリスクが高いことにも着目すべきです。

確かに控訴審では不法原因給付の理論によって代表者の責任が否定されました。しかし利用会社は控訴しなかったので、損害賠償義務が認められたままの状態です。

取引先も、深く関与したわけでもないのに訴訟に巻き込まれて弁護士費用がかかり、信用リスクも発生しています。

ファクタリングで架空債権の譲渡を行ってはならないのはもちろん、架空債権譲渡への協力も控えましょう。

今後の参考にしてみてください。

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