金融裁判事例

経済的に危機状態にある債務者との債権譲渡予約が
「公序良俗違反で無効」と判断された事例

企業が経済的に破綻に近い状況になると、債権者は債権を保全する措置をとらねばなりません。そのために「債権譲渡の予約」を行うケースがあります。

債権譲渡の予約をするときには「譲渡対象の債権」などの要素がある程度、特定されていなければなりません。
しかし現実の将来の債権譲渡予約時には、これらの特定が容易ではない場合もあるでしょう。

本件は、破綻状態に近くなった企業への債権を保全するために「債権譲渡予約」をする際、被担保債権の範囲や譲渡対象の債権などが不明確であったことなどから「公序良俗違反」として契約が無効と判断された事例です(最高裁12年4月21日 平成8年(オ)第1049号)。

取引先が破綻しそうな場合など、是非参考にしてみてください。

1.債権譲渡の予約とは

債権譲渡の予約とは、「将来の債権譲渡」を約束する契約です。
今すぐに債権を譲渡するのではなく、将来の一定時期に債権を譲渡する約束をします。

一般的に債権譲渡予約が利用される場合によくある目的は、債権を担保にすることです。
継続的に取引のある企業の経営状態が悪化してきたら、将来債務不履行となるリスクが懸念されるでしょう。
そこで万一に備えて債権譲渡の予約を行い、債務不履行や破綻などが生じたときに債権譲渡を実行できるようにしておきます。

債権譲渡の予約をしておけば、債務者が支払をしないときに債権者が代わって債権を行使し、第三債務者から支払を受けられる、という仕組みです。

契約内容の特定について

どのような契約にもいえることですが、債権譲渡の予約をするときにも「契約内容」を特定しなければなりません。
どのような状況となったときにどの債権を譲渡するのかが決まっていなければ、予約を実行できる場合や行使できる債権の範囲などが明らかにならず、契約の意味がないからです。

単に「債権を譲渡します」などと約束しても、契約にはなりません。内容の特定されない契約は無効です。

債権譲渡の場合、以下のような要素が特定されている必要があるでしょう。

譲渡される債権の内容

譲渡の対象となる債権の金額や第三債務者、債権の種類、債権の発生時期などが特定されている必要があります。

被担保債権の内容

担保として債権譲渡の予約をするときには、被担保債権の内容も明らかにしておくべきでしょう。

債権譲渡の予約を行使できる条件や時期

どういった状況になれば債権譲渡の予約権を行使できるのか、行使できる時期についても明確にしておくべきです。

以上を前提に、今回の判決内容をみていきましょう。

2.事案の概要

本件の債務者は、経営状況が悪化していたK社という寝具店です。
原告はK社との間で継続的に取引をしており、常時年間1億円程度の債権残高のある状態でした。

ところがK社の経営環境が徐々に悪化。同社は粉飾決算を行ったり多額の欠損が出たりして、原告への融資金の返済が困難な状況に陥ってしまいました。

そこで原告はK社への現在や将来にわたる一切の債権を担保するために「債権譲渡の予約」を締結することに。K社も合意したため、両者の間で契約書が取り交わされました。

その際、譲渡債権の金額は取り決めず、契約日付は空欄にしたまま「債権譲渡契約書」を作成しました。それにK社が記名押印して原告へ交付し、原告のK社に対するどの債権を担保するのか(被担保債権)も明らかにされませんでした。

以上のように「将来K社が原告に対する債務の弁済を遅延したり支払い停止に陥ったりして信用が危ぶまれる状態になったとき」には、原告が空欄にしている譲渡債権額や日付を記入して債権譲渡契約書を完成させ、権利行使できる約束をしたのです。

このように、契約金額が空欄で日付も空欄、原告が自由に記入して契約書を完成させることのできる債権譲渡予約は、著しくK社にとって不利になります。

そこで原告はK社の窮状に乗じてこういった不当な契約を締結させたものであり、公序良俗に反するのではないか(民法90条)が問題となりました。

原告としては債権譲渡契約が有効であることを前提に第三債務者へ債務の弁済を請求しましたが、被請求者は「契約自体が公序良俗違反により無効」と主張して支払を拒んだため、裁判に持ち込まれたのが本件の経緯です。

3.裁判所の判断

裁判所は以下のように述べて本件の債権譲渡予約を公序良俗違反と認定し、無効と判断しました。

3-1.契約内容として不明確な事項が多すぎる

本件では譲渡の対象となる債権額が空欄とされて不明確であったうえ、債権の限度額も設定されていませんでした。
また第三債務者は11社ありましたが、原告が権利行使の際に自由に選定できることになっていました。
被担保債権の額も確定しておらず、債権譲渡通知を発送する時期についても原告の判断に委ねられ、権利行使できる終期も設定されていませんでした。

3-2.原告は何の公示手段もなく債権の優先的な弁済を受けられて不公平である

このように原告が自由に金額や第三債務者、債権譲渡の通知の発送時期などを決められる契約が有効であれば、原告は何の公示手段もなしに自社の債権の優先的な弁済を受けられることになります。それでは「他の債権者との間で不公平」になると指摘されました。

3-3.K社の窮状に乗じたものであり、不利益を課す著しく不公正な契約

本件の債権譲渡予約は、K社が窮状にあることに乗じて原告の申し入れによって締結されたものです。このような契約締結の経緯や契約内容からすると、本件契約はK社の利益を損なうものであり、著しく不公正と判断されました。

以上より、本件のように内容が何ら特定されていない債権譲渡予約は「公序良俗に反して無効」と判断され、原告による請求は棄却されました。

4.本件から学べること

取引先が窮状に陥ると、本件のように債権者が債権譲渡予約を締結して債権を保全しようとするケースが少なくありません。
しかし債権譲渡の対象や被担保債権の額、債権譲渡予約権を行使できる時期など、最低限の特定をしておかねば契約が無効になるリスクがあります。
特に本件のように債権者が任意に債権譲渡対象を選定し、債権譲渡予約を行使できる時期も自由とすると、公序良俗違反と判断される可能性もあるので注意しましょう。

ただし本件では「債務者が経済的に窮状に陥っていた」という事情があります。内容が少々不明確な債権譲渡予約であっても必ずしも無効になるわけではありません。

  • 債務者が窮状に陥っていること
  • 債権譲渡の内容が不明確であること

この2つの条件がそろっていたために公序良俗違反が認定されたといえるでしょう。
今後の取引や担保権の設定時に参考にしてみてください。

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