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金融裁判事例

事案の見解

債権譲渡の予約において「債権の特定」がどこまで必要か判断された事例

債権譲渡契約を締結するとき、今すぐではなく「将来の債権」が対象となるケースが少なくありません。
そんなときには「債権の内容がどこまで特定されているべきか」が問題となる可能性があります。

今回は、最高裁判所で「債権譲渡における債権の特定がどの程度必要か」が取り上げられた事例をご紹介します。

最高裁第2小法廷 平成12年4月21日判決(平成8年(オ)第1049号)

1.債権の特定とは

今回の判例では「債権の特定」が問題になっているので、そもそも「債権の特定」とはどういったことなのか、理解しましょう。
債権の特定とは、「債権譲渡の対象を明らかにすること」です。

債権譲渡を行うときには、「どの債権を譲渡対象にするのか」明確にしなければなりません。何の債権を譲るのかが明らかにならないと、何を譲ってよいのかわからないので契約は当然無効になります。

たとえば自動車を売買する状況を考えてみてください。「私の所有している白のプリウスで、ナンバーは〇〇〇〇、登録年度は〇〇〇〇年のものを売ります」などと特定して、ようやく契約は有効となるでしょう。抽象的に「自動車を売ります」といっても意味がないのは明らかです。どの自動車が対象かわからなければ、契約として成立しません。

同じことが債権譲渡にもいえます。債権譲渡契約時には、必ず債権を特定しなければなりません。

通常は以下のような要素によって債権を特定します。

  • 債権者と債務者
  • 債権の発生原因
  • 債権の発生日
  • 債権の弁済日
  • 債権額

こういった事情がすべて明らかになっており、すでに発生している債権であれば通常は「債権が特定」されているといえるでしょう。

本件では、債権譲渡契約の「予約」が行われており、契約締結時には債権の内容が不明確だったために「特定が足りないのではないか?」と争われました。

2.事案の概要と上告人の主張

本件の上告人は、債権譲渡によって売り渡された債権の第三債務者です。
一方、被上告人は債権を買い取った譲受人。被上告人が上告人に債務の弁済を請求したところ、上告人は以下のような主張をして支払を拒みました。

2-1.債権が特定されていない

1つは債権の特定の不十分さです。
上告人は「この債権譲渡予約では債権が特定されていないので無効」として支払を拒みました。

本件では、資金繰りに困った株式会社A(もともとの債権者)が被上告人と「債権譲渡の予約」を行いましたが、その際、債権は以下のような方法で表現されていました。

  • 譲渡人は株式会社A
  • 譲受人は被上告人
  • 第三債務者は上告人を含む11社
  • 譲り渡される債権は、Aがこたつや羽毛布団などの販売に関して、現在及び将来にわたって第三債務者へ有することのある一切の売掛代金

上告人としては、上記のような表現では特定が足りていないとして支払を拒絶したのです。

2-2.公序良俗に反して無効

また上告人は以下のような事情をもとに、本件の契約は「公序良俗に反して無効」であるとも主張しました。

  • 本件の債権譲渡予約は他の債権者との均衡を害する不公平なものであり、抜け駆け的な契約
  • 本件の債権譲渡予約は、株式会社Aの利益を著しく損なうものである

以上のように、本件は債権の譲受人から支払いを請求された第三債務者が「債権の特定」と「公序良俗違反」の2つの理由を持って支払を拒んだケースといえます。

3.裁判所の判断

最高裁判所は以下のように判断し、上告人の請求を棄却しました。

3-1.債権は特定されている

1つ目の争点は、本件の債権譲渡予約において「債権が特定されているかどうか」という点です。
これについて、裁判所は以下のような判断基準を明示しました。

「債権譲渡の予約においては、予約完結時において譲渡対象の債権が譲渡人の有する他の債権と識別できる程度に特定されていれば足りる」
「対象となる債権が現時点で発生しる場合でも将来発生する債権であっても、同じ基準で判断する」

わかりやすくいうと、対象債権が「譲渡人が保有する他の債権と識別できるか」によって債権の特定性が判断されます。
本件でこの基準をあてはめたところ、「特定の商品」についての売買取引であり債権者や債務者も特定されているので、他の債権と識別できると判断されました。

また債権譲渡予約によって担保される債権額は契約締結後に変動する可能性がありますが、「変動するからといって予約の効力が否定されるわけでもない」とも判断されました。

以上より、裁判所は譲渡対象とされた債権について「特定されている」と認定したのです。

3-2.公序良俗にも違反しない

上告人は本件の債権譲渡予約が不公平でAを害するものであり「公序良俗に反する」とも主張していました。
しかし裁判所は以下のように判断し、上告人の主張を退けました。

  • 本件契約締結経緯に照らすと、被上告人がAの窮状に乗じて抜け駆け的に自分の債権保全をはかったとはいえない(本件では、資金繰りに困った株式会社Aに対し、被上告人が債務の支払を猶予したり代わりに原材料を仕入れたり手形の割引をしてあげたりしていた事情がありました)
  • 本件予約においては、Aが債務不履行や支払不能となったときにはじめて被上告人が債権譲渡の権利行使できるとしているものであり、それまでは被上告人が債権の取り立てや処分をできないことになっている
  • こういった事情からすると、本件予約が株式会社Aの経営を過度に拘束したり他の債権者を不当に害したりするものとはいえない

結局、上告人の主張は認められず、被上告人(譲受人)による支払い請求が認められることになりました。

3-3.仮執行宣言に要注意

さらに本件では「仮執行宣言」がついています。そこで被告が控訴してもM社によって預金や債権、不動産や在庫などを差し押さえられてしまうおそれがあります。
裁判されるとこういった余計なリスクを背負ってしまう可能性が高いので、慎重に対応しなければなりません。

4.本件から学べること

債権譲渡を行うときには、「債権の特定」が必要です。今回の判例で、債権が特定される「基準」が示されました。最低限、「譲渡人が有する他の債権と識別できる程度」に特定されていないと、債権譲渡自体が無効になってしまいます。
特に将来に発生する債権を対象とするときには、特定があいまいになってしまいがちなので、注意が必要といえるでしょう。

また経営不振の会社から債権譲渡を受けるときには、他の債権者との公平性を疑問視されたり「圧力をかけて不当な内容の条件をおしつけた」などと疑われたりして「公序良俗違反」を主張されるケースが少なくありません。ファクタリングに関する裁判でも、ユーザー企業側がファクタリング契約の公序良俗違反を主張するケースが多々あります。

債権譲渡契約(予約も含む)を締結する際には、将来公序良俗違反などと認定されることのないよう、契約締結の経緯や契約内容に配慮すべきといえるでしょう。

今後債権譲渡契約やファクタリングを利用する際など、ぜひ参考にしてみてください。

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