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金融裁判事例

事案の見解

いわゆる「私製手形」の請求は手形訴訟では受け付けられないと判断された事例

企業間取引で「約束手形」を発行するとき、ごく稀に「私製手形」が利用されるケースがあります。
私製手形とは、銀行が発行するものではなく民間人が独自に発行する手形です。

そもそも私製手形は有効なのでしょうか、また私製手形にもとづく請求を「手形訴訟」で行った場合、裁判所は受け付けてくれるのでしょうか?

本件は、私製手形にもとづく請求を「手形訴訟」で行ったときに裁判所が「不適法」として却下した事例です。

「私製手形」や「手形訴訟」とはどういったものなのか、判決内容といっしょにみていきましょう(平成15年10月17日東京地方裁判所 平成15年(手ワ)186号 約束手形金請求事件)。

1.私製手形とは

私製手形とは、銀行等の金融機関が発行する「統一手形用紙」を使わずに民間人が自作する手形です。

手形には手形法上の要件があります。約束手形の場合、以下の内容が書かれていなければ手形として成立しません(手形法75条)。

  • 「約束手形」という文字
  • 一定金額を支払うと単純な約束
  • 満期の表示
  • 支払地の表示
  • 支払いを受ける者(受取人)の名称
  • 手形振出日、振出地
  • 手形振出人の記名捺印または署名

以上7項目が書かれていなければ、そもそも手形としての効力が認められません。

私製手形の有効性

それでは民間人が勝手に作成した私製手形は有効な手形といえるのでしょうか?

私製手形は流通させられない

そもそも約束手形は金融機関が統一手形用紙にて発行することを予定されており、金融機関が発行するからこそ世間において信用を得られるものです。
民間人が勝手に作成した私製手形では誰も信用せず、第三者が割り引くことも期待できないでしょう。

もちろん金融機関でも手形としての効果が認められません。銀行約定や手形交換所規則により、手形交換所では取り扱いができません。私製手形を金融機関へ持ち込んでも換金は不可能であり、流通はほとんど不可能といえます。
こういったことから私製手形を「おもちゃ手形」とよぶケースもあるくらいです。

法律上の効果は?

ただし私製手形であっても手形法上の要件を満たしている限りは「有効な手形」ともいえます。
手形法では、「金融機関の統一用紙でなくてはならない」などと規定されていないためです。

本件では、このような「私製手形」の請求を「手形訴訟」でできるかどうかが争われました。

2.手形訴訟とは

手形訴訟とは、手形や小切手にもとづいて支払いを請求するための特別な訴訟です。
通常の訴訟手続きより審理が簡易化されており、迅速に解決できて強制執行(差押)も容易となっています。
手形訴訟で提出できる証拠は原則として手形や契約書、領収書などの書証に限定されており、例外的に文書の成立や手形の提示に関する事項についてのみ本人尋問が可能です。
審理は原則として1回のみであり、すぐに判決が下されます。

通常の訴訟であれば短くても3ヶ月から半年程度はかかってしまいますが、手形訴訟なら数週間~1ヶ月程度でも結果が出ます。

判決に対して被告が異議を申し立てると通常訴訟に移行しますが、判決確定前であっても仮執行宣言が出るので、原告は強制執行が可能となります。

このように債権者が手形訴訟を利用すると、手形にもとづいて迅速かつ簡易に相手の資産を差し押さえられるメリットがあります。

3.本件の概要

本件は、金融業者が被告に「約束手形」と書かれた私製手形を発行させた事例です。
手形に使われた用紙はA4サイズの通常の紙であり、「約束手形」という表題の下に手形法の定める手形要件が記載されていました。
もちろん金融機関の統一書式ではありません。

内容的には、被告は原告に対して200万円を払うことになっていました。

原告は被告に対し、この約束手形にもとづいて「手形訴訟」を利用して金銭の支払いを求めました。

4.裁判所の判断

裁判所は以下のような理由から、原告の主張を不適法却下として受け付けませんでした。

  • 本件のような私製手形は暴力団関係者でもない限り誰も取得しないものであり、通常の約束手形のような流通性がまったくない
  • 手形としての形式的要件は満たしていても、手形としての本来的な性質がまったく認められない
  • 原告が被告に私製手形を作らせたのは、手形訴訟によって被告の抗弁を封じて強制執行を行うためであり、手形本来の目的から外れている

つまり私製手形は手形法上の要件を満たしていても「手形訴訟」によって支払いを請求できるのものではないとして、原告の請求を却下したのです。

なお裁判所も「私製手形」について「通常の金銭消費貸借契約」の効力は認めています。
原告が手形訴訟を利用できないとしても、通常の民事訴訟を起こして金銭の取り立てを行うことは可能といえるでしょう。

5.社会的な背景

実はこの判決が出たとき、手形訴訟の利用方法について問題が起こっていました。
一部の悪質な金融会社が支払に窮した債務者に私製手形を発行させ、支払が滞ったときに手形訴訟を起こして有無をいわさず強制執行をする、といった強引な取り立て行為を頻繁に行っていたのです。

こういった状況の中で、東京地裁は「私製手形による請求は手形訴訟の目的に沿わない」として、訴えを却下しました。

この判決がモデルケースとなり、その後は悪質な金融業者が私製手形を発行させて手形訴訟で取り立てを行う、といった事態は収束していきました。

6.本件判決から学べること

本件では、「私製手形」を発行させても手形訴訟での取り立てができない、と判断されています。

本判決から15年以上が経過し、現在では「私製手形を発行させて手形訴訟を提起する」といった強硬な取り立て行為をする業者はほとんどないと考えられます。

ただ、その他にもいろいろな悪質業者や無茶な取り立て方法があります。困ったときには今回の裁判例を思い出して、弁護士に相談してみてください。対処方法についてのアドバイスをもらえるでしょう。

なお本件では私製手形であっても「通常の金銭消費貸借契約の効果が認められる」と判断されています。

手形訴訟で簡易に差押をされることはなくても、お金を借りた以上は返済しなければなりませんし、通常の民事訴訟を起こされる可能性はあります。

7.まとめ|資金繰りの業者選定は慎重に

事業者が資金繰りに困ったときにはさまざまな金融業者がいろいろな話を持ちかけてくるものです。ファクタリング業者の中にもよい業者とそうでもない業者があります。
資金繰りのために融資やファクタリングを利用する際には、相手業者やサービスの内容をしっかり見極めて、良質な業者を選定しましょう。

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