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金融裁判事例

事案の見解

債権譲渡登記をした債権者に供託金の還付請求権が認められた事例

資金繰りに窮すると、自社の売掛債権を「二重譲渡」してしまう企業が少なくありません。
そうなると債権者が複数になり、第三債務者は「誰に支払をして良いのか」わからない状態になってしまいます。

こんなとき、第三債務者は弁済金を法務局へ「供託」することにより、責任を免れられます。
ただ供託の際に「本来なら優先されるべき債権者」が「被供託者(供託金の宛先)」として記載されていない場合もあります。名前が書かれていなかったら、本来は優先されるはずの債権者でも供託金を還付請求できないのでしょうか?

本件は、債権の二重譲渡が行われたときの供託金還付請求権について判断された事例です(東京地方裁判所 平成21年1月16日 供託金還付請求権確認等請求事件)。

被供託者として記載されていなくても供託金を受け取れるのはどういったケースなのか、みていきましょう。

1.供託金の取り戻しとは

債権が二重譲渡されると、第三債務者は「誰が本当の権利者なのか」わからなくなってしまうものです。しかし債権の支払期限が到来したら、支払わない限り「延滞状態」になって「遅延損害金」も発生してしまうでしょう。
そこで認められるのが「供託」の制度です。債権者不明のとき、第三債務者は法務局に弁済金を「供託」することによって責任を免れることができます。供託の際には、供託金の宛先を「被供託者」として記載します。被供託者として指定された人は、後に法務局へ還付請求してお金を取り戻せる、という流れです。

つまり誰が真の権利者かわからない場合、第三債務者が「認識している債権者名」を「被供託者」として「供託」をすれば、延滞状態にならず一切の弁済責任から解放されます。
以上が供託制度の概要です。

本件の問題点

本件の原告は「債権の支払いを受けるべき真の権利者」でしたが「被供託者」として名前を記載されていませんでした。
供託制度では、基本的に被供託者として指定されたものが供託金を取り戻すことになっています。権利者であっても被供託者になっていなければ供託金を取り戻せないのでしょうか?
そのような結果は不合理といえるでしょう。原告は供託金の還付請求権の確認を求めて裁判所へ提訴しました。これが本件の本質的な争点となります。

2.本件の概要

本件の原告は、被告の運輸サービス業を営むK社へ金銭を貸し付けましたが、K社が支払をしなかったために同社の売掛債権について、債権譲渡を受けました。
このとき原告は債権譲渡ファイルに「債権譲渡の登記」を行いましたが、「第三債務者への通知」はしませんでした。

その後K社は他の会社や個人(合計9名)にも同じ債権を譲渡し、これらの債権譲渡については第三債務者へ通知が行われました。また、K社に対する別の債権者はこの債権に対し「仮差押」を申し立てて、裁判所からの仮差押命令が第三債務者へ送達されました。

こういった状況の中、第三債務者はいったい誰が本当の債権者かわからなくなったため、債務の弁済金を法務局に供託。被供託者としては、第三債務者が把握している10名(K社と通知を送ってきた9名の債権譲受人)と記載しました。

原告は債権譲渡通知を送っていなかったため、被供託者に含まれていませんでした。

このままでは原告が法務局に行っても供託金を受け取れません。そこで原告はK社やその代表者へ貸付金の返還を求めるとともに、供託金の取り戻し請求権を主張して裁判を起こしました。

つまり「被供託者として記載されていない債権者でも、先に登記を備えていれば供託金還付請求権が認められるか」が問題となった事案です。

3.裁判所の判断

裁判所は以下のように判断し、原告の還付請求権を認めました。

原告は債権譲渡の登記を行っており、他の譲受人に優先する

本件の原告は、他の譲受人に先立って債権譲渡の登記を行っています。
債権譲渡の登記は有効な対抗要件として認められるので、原告は他の譲受人より優先する「権利者」となります。

第三債務者が真の権利者を覚知できないときには、債権者を被供託者として記載することはできない

債権者が不明なために第三債務者が供託するとき、真の権利者を認識できないケースは少なくありません。たとえば債権者が死亡したときには相続人が不明なケースもありますし、本件のように債権譲渡の通知が行われていないために真の権利者が不明なケースもあるでしょう。
そういったケースにおいて、被供託者として記載されていないからといって還付請求権が認められないのは不合理です。

真の債権者は確定判決によって権利を確定すれば、供託金の還付請求権を認めても問題は生じない

真の権利者が被供託者として記載されていなくても、裁判によって権利が確認されているなら、供託金の還付請求権を認めても不都合はありません。法務局で対応に迷い混乱することもないでしょう。

本件では他の債権譲受人が反論せず、期日に出頭していない

この裁判では、原告以外の債権の譲受人は呼出をうけても期日に出頭せず、裁判所へ反論書面(答弁書)も提出しませんでした。民事訴訟では、答弁書を提出せず期日に出頭しない場合、原告の言い分をすべて認めた扱いになります。

以上のような理由から、裁判所は原告に供託金159万8,758円分の還付請求権を認めました。

4.本件から学べること

本件では、「債権譲渡の通知をしなかったために被供託者として記載されなかった債権の譲受人が供託金を取り戻せるのか」が判断されました。
結論的には、「登記によって優先的に権利を取得しているので、供託金の取り戻しが認められる」と認定されています。

被供託者として名前を記載されなくても供託金を受け取れるケースがある、というのは非常に重要な判断事項といえるでしょう。

ただし「債権譲渡の通知をしなくても登記さえしていれば、供託金を取り戻せる」わけではありません。本件では「確定判決によって権利を確認された場合」という条件がつけられています。
つまり被供託者として記載されていない債権者が供託金の還付請求をするには、いちいち裁判を起こして権利を確定してもらわねばならないのです。
本件の判断内容からしても、裁判で権利が確定されなければ、真の権利者であっても供託金を取り戻せない可能性が高いといえるでしょう。
また本件では被告がまったく争わなかったという事情があります。仮に被告側が争ってくると権利確定が難しくなるケースもあるでしょう。

こういったリスクを考えると、債権譲渡を受けるときにはできる限り債権譲渡登記だけではなく、第三者への通知も行っておいた方が安全といえます。

今後債権譲渡を利用する際の参考にしてみてください。

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