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金融裁判事例

事案の見解

ファクタリング業者への債権譲渡が法律上「有効」と判断された裁判例

ある企業が資金繰りに給してファクタリング会社へ債権譲渡すると、その企業へ債権を有している金融機関などが「債権譲渡は無効」と主張して争ってくるケースがあります。

本件は、信用金庫から借り入れをしていた運送会社がファクタリングを利用したところ、信用金庫が「ファクタリングによる債権譲渡は無効」として供託金の取り戻し請求権の確認を求めた事例です。

結論的には信用金庫側の請求が棄却され、ファクタリング会社が勝訴しました。
事案の概要と争点、裁判所の判断内容をお伝えいたします。

1.事案の概要

原告は信用金庫であり、A社(運送業)に対して貸付をしていました。
A社は資金繰りが悪化したため、平成26年12月6日にファクタリングを利用。ファクタリング会社へ額面830万5424円の債権を譲渡し、672万7394円分の資金調達を受けました。譲渡されたのはS社に対する運送代金債権です。その際、ファクタリング会社はS社へ確定日付のある通知を行い、対抗要件を備えました。
このファクタリング業者が今回提訴された被告です。

その後A社は倒産状態となり、債務整理に着手。A社は税金も滞納していたので税務署が滞納処分を行いました。
原告に対する借入金も不払いとなっていたので、原告は平成26年12月22日に仮差押命令を取得。第三債務者であるS社は運送代金の権利者が不明となったため運送代金を供託しました。

平成27年3月5日原告はA社に対する仮執行宣言つき判決を取得し、平成27年4月27日にA社の国に対する債権について、債権差押命令の発布を受けました。

ところが国は「830万5424円(被告に債権譲渡された分)については誰に権利があるのか不明」として原告に弁済しませんでした。

そこで原告は「被告への債権譲渡は無効で被告に供託金取り戻し請求権がないので、自社へ供託金取り戻し請求券を認めるべき」として本件の提訴を行いました。

2.争点

本件では原告よりも被告の方が先に対抗要件を備えています。
原告が供託金を取り戻すには、A社から被告への債権譲渡が無効でなければなりません。

原告の主張

原告は以下のような理由により、被告への債権譲渡は無効であると主張しました。

譲渡禁止特約について故意や重過失がある

被告へ譲渡された債権には譲渡禁止特約がついていました。A社としては「被告は譲渡禁止特約について知っていたか、知らなかったとしても重過失があるので被告への債権譲渡は無効」と主張しました。

本件債権譲渡は弁護士法73条違反である

弁護士法73条は、以下のように定めています。

(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
73条 何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない。

原告は「被告は業務として債権譲渡を受け訴訟や示談などの方法で実行しているので弁護士法73条に違反する」と主張しました。

本件債権譲渡は貸金契約である

原告は本件で「ファクタリング取引は、外見上は債権譲渡であっても実質的にはお金を貸し付けて弁済期がきたら資金を回収する貸金契約と同様」「手形取引と共通の機能をもっている」という主張も行いました。
「貸金契約であるにもかかわらず貸金業登録をせずに違法に貸付が行われたので、無効」という理屈です。

本件債権譲渡は公序良俗違反である

本件債権譲渡契約では、830万5424円の額面額の債権が672万7394円で取引されました。これを年利に直すと329%にもなり、貸金契約であれば明らかに暴利です。
そこで原告は「本件ファクタリング契約は公序良俗に反して無効」と主張しました。

3.裁判所の判断

上記の各争点につき、裁判所は以下のように判断しました。

譲渡禁止特約について

本件において、確かにA社のS社に対する運送債権には譲渡禁止特約がついていました。
ただ被告はファクタリングを実行する際にA社から確認書や同意書をとるなどして「譲渡禁止特約が付されていないこと」を慎重に確認しており、契約時においてA社が虚偽を述べていると疑われるような事情もありませんでした。
そこで被告が譲渡禁止特約について知っていたとはいえず、重過失もなかったと判断されました。

弁護士法73条違反について

弁護士法73条違反となるのは「弁護士ではないものが権利の譲渡を受けてみだりに訴訟を誘発し、紛争を助長したり弁護士法72条を潜脱したりする場合」です(最高裁平成14年1月22日)。
弁護士法72条は弁護士以外のものが業として法律業務を行う報酬を得ることを禁止している条文です。

ファクタリング業者が債権譲渡を受ける目的は、融資を行って手数料を得るためであり、訴訟や紛争をみだりに誘発するためではありません。もちろん弁護士以外のものが法律業務を行うことを禁止する弁護士法72条にも抵触しません。

本件においても被告は特段紛争を引き起こそうとしてファクタリング契約を締結した事情は認められないので、弁護士法73条にも違反しないと判断されました。

貸金契約ではない

原告は「ファクタリング契約は実質的に貸金契約と同じ」と主張しましたが、裁判所は否定しました。
確かにファクタリングには債権譲渡に似た性質もありますが、貸付と異なりあくまで「売買として債権を買い取る」契約です。また本件では買戻特約もついておらずノンリコースのものであり被告が不払いリスクを負っていたので貸金契約と同様とはいえません。

原告は「手形取引と類似」と主張しますが、手形割引の場合には譲渡人に遡求義務があり銀行取引約定書において買い戻し義務が定められています。買い戻し義務のないファクタリング契約は手形割引とは異なることが明らかですので、本件ファクタリング契約は貸金契約に該当しないと判断されました。

公序良俗違反にならない

原告は「本件ファクタリングの手数料が高すぎて暴利なので公序良俗に違反する」と主張しましたが、裁判所はこの点も排斥しました。
そもそも本件ファクタリング契約は貸金契約ではなく債権譲渡契約です。
本件で設定された手数料も債権譲渡契約におけるものとしては暴利とはいえません。

以上より、原告の主張はすべて排斥され、本件では「先に対抗要件を備えた被告」に優先権が認められるので原告の請求は棄却されました。

4.本件のまとめ

本件ではよくある「貸金契約」や「公序良俗違反」の争点の他、「譲渡禁止特約についての重過失」や「弁護士法73条違反」の点が問題となりました。

譲渡禁止特約について

被告はファクタリング契約の際にA社から同意書をとるなどしてしっかり譲渡禁止特約の有無について確認していたため「重過失はない」と判断されました。
ファクタリング業者が契約を締結するときには、譲渡禁止特約の確認が非常に重要ポイントとなります。確認をおこたると「重過失あり」と判断される可能性が高くなります。

弁護士法73条違反について

本件判決では、通常のファクタリング業務は「弁護士法73条違反にならない」と判断されたことにも注目すべきです。
反対にいうと、既に紛争が生じている案件や紛争になりそうな案件で債権を取得すると、弁護士法73違反とされるリスクも発生するので要注意といえるでしょう。

今後の参考にしてみてください。

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