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金融裁判事例

事案の見解

ファクタリングで譲渡された債権の「供託金還付請求権」が争われた裁判例

東京地裁平成29年(ワ)7263号、平成29年(ワ)21998号
平成31年4月15日 判決言い渡し

ファクタリングで債権譲渡された後、差し押さえが競合するなどして「第三債務者が誰に弁済すればよいかわからない状態」となり、債権が「供託」されるケースがあります。

するとファクタリング会社と他の債権者との間で「供託金還付請求権」がどちらにあるのか、決めなければなりません。

本件はファクタリング会社と「国」が供託金還付請求権を争った事案です。
結論としては、ファクタリング会社の還付請求権が認められました。
以下でどういった事例だったのか、裁判所の判断理由を含めてみていきましょう。

1.事案の概要

本件に登場するファクタリング会社をA社、ファクタリング利用会社をB社、第三債務者をC社とします。A社の後にB社から別の債権譲渡を受けたDという人物も登場します。

A社でのファクタリング利用と不払い

B社は運送業を営む会社でC社に対して運送料債権を有していました。
資金繰りが悪化してA社のファクタリングを利用し、A社へ550万円の運送料債権を譲渡して478万円を受け取りました。譲渡された運送料債権には「譲渡禁止特約」がついていましたが、B社はA社へそのむねを説明せず「譲渡禁止特約はついていない」という確認書を差し入れました。

平成28年10月20日、C社はB社へ支払いを行いましたが、B社はA社へ約束の550万円を支払いませんでした。そこでA社は自らC社へ取り立てを行うべく、B社の代理で債権譲渡通知を発送して対抗要件を備えました。

Dに対する債権譲渡

その後B社はDに対してあらたに運送料債権を譲渡し、C社に対して債権譲渡通知書を送りました。

国による差し押さえと破産申立

平成28年11月2日、B社は国税を滞納していたため、国がB社の運送料債権を差し押さえました。
その後B社は破産申立を行い、平成28年11月16日に破産手続開始決定が下されました。

差し押さえの競合

このように多数の債権者が現れてC社としては誰に払うべきか判断できなくなったため、運送料債権を供託しました。すると国は供託金を差し押さえました。

2.争点

本件の争点を大きく分けると以下の5つです。

ファクタリングが公序良俗に反して無効か

そもそもA社とB社のファクタリング契約が公序良俗に反して無効かが争われました。
ファクタリングが実質的に貸金契約であれば、貸金業登録をせずに高金利で貸し付けた結果になるのでファクタリング契約が公序良俗に反することになってしまいます。
そうなるとファクタリング契約が無効となり、A社による供託金取り戻しは認められません。

国や管財人は譲渡禁止特約を主張できるか

本件で譲渡された運送料債権には「譲渡禁止特約」がついていました。
譲渡禁止特約がついている債権は譲渡できません。
ただ、譲渡禁止特約を主張できるのは基本的に「債務者」です。国や管財人が譲渡禁止特約を主張できる立場かどうかが問題になりました。

A社は譲渡禁止特約について善意無重過失だったか

譲渡禁止特約がついていても、譲受人が「善意無重過失」であれば債権譲渡の無効を譲受人へ主張できません。本件でも、A社が譲渡禁止特約について故意や重過失があれば、A社の権利は認められなくなるため、A社が「善意無重過失だったか」が争点となりました。

債権が特定されていたか

本件では「譲渡債権の特定性」も問題になりました。目的債権が特定されない債権譲渡は無効です。

国側は、契約書をみてもA社へ譲渡された債権は特定性を欠いていると主張し、A社には権利が認められないと主張。A社はこれを否定し、債権は特定されていたと反論しました。

Dは善意無重過失であったか

本件ではDへも譲渡禁止特約つきの債権が譲渡されたため、Dについても「善意無重過失であったか」が問題となりました。

国による供託金還付請求権の差押えは認められるか

本件で、国は破産手続開始決定が出た後に供託金還付請求権を差し押さえています。
破産法上、破産手続開始決定があると、その後に新たな差し押さえができないと規定されています。
そこでA社は国による供託金還付請求権の差し押さえが「破産手続開始決定後の新たな滞納処分」であり認められないと主張しました。
国側は「もともとの債権の差し押さえと供託金還付請求権の差し押さえは実質的に同一であるから、あらたな差し押さえとはいえない」と反論しました。

3.裁判所の判断

以上の争点につき、裁判所は以下のように判断しました。

ファクタリング契約は公序良俗に反しない

ファクタリングが実質的に金銭消費貸借となり公序良俗に反するかどうかが争われましたが、裁判所は否定しました。

国や管財人は譲渡禁止特約を主張できる

国や管財人が譲渡禁止特約を主張できるかという点については、肯定されました。
確かに譲渡禁止特約のついている債権を譲渡した本人である「譲渡人」は無効を主張できません。しかし本件で国は譲渡債権を差し押さえた債権者であり、破産管財人も譲渡人とは異なり差押債権者に近い立場だからです。

A社は譲渡禁止特約について善意無過失

裁判所はA社が譲渡禁止特約について善意無重過失であったと認定しました。
ファクタリング契約の際、B社はA社へ譲渡禁止特約がついていないと説明し、その旨の確認書も差し入れていました。またB社とC社間の契約書はWEB管理されており、A社が直接B社とC社の契約内容を確認するのも難しい状態だったからです。
その他にもA社が譲渡禁止特約について悪意や重過失と考えられる事情はありませんでした。

債権の特定性は認められる

本件でA社に譲渡された債権については、特定性が認められました。
確かに当初の個別契約時には特定が足りていなかったと考えられますが、その後A社がC社へ債権譲渡通知を送った時点では対象債権が特定されたといえるためです。

Dには重過失がある

B社が債権譲渡した相手方であるDについては、悪意はなくても「重過失がある」と判断されました。
Dはファクタリング会社ではなく、C社への直接連絡を避けなければならない事情がなかったことなどが評価されました。DとしてはC社へ電話をすれば簡単に譲渡禁止特約を確認できたので、それを怠ったのは重過失と認定されました。

国による供託金差し押さえは認められる

破産手続開始決定後の供託金差し押さえが認められるか、という争点については「認められる」と判断されました。国の主張するとおり、現債権と差し押さえの対象となった債権には実質的な同一性があるからです。
ただしA社へ譲渡された債権については、先にA社が対抗要件を備えているためにA社に優先的な権利が認められると認定されました。

4.本件から学べること

本件はファクタリングや通常の債権譲渡が行われた後で税金の滞納処分が行われ、供託金還付請求権の所在が争われた非常に複雑な事案です。債権には譲渡禁止特約まで継いていました。

結果的にファクタリング会社による供託金取り戻し請求権は認められました。
理由はいくつかありますが、重要なのは「ファクタリング会社が譲渡禁止について善意無重過失だった」ことがあげられます。
もしもファクタリング会社が契約時にしっかり譲渡禁止特約についての確認をしていなければ、反対の結論となった可能性も十分にあります。
実際、同じように債権譲渡を受けたDに関しては重過失が認定され、還付請求権が否定されました。

ファクタリング業を営む方やこれから利用される企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。

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