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金融裁判事例

事案の見解

経済的に危機的状況にある債務者との間で締結した包括的な債権譲渡が公序良俗違反と判断された裁判例

(大阪地方裁判所平成6年(ワ)57号、平成6年10月28日判決言い渡し)

債権譲渡契約が有効になるためには、第三債務者や債権額、債権の発生時期などの基本的事項を特定しなければなりません。ところが取引先が経済的に困難な状態になると、ほとんど何の特定もせずに、債権者に一方的に有利となる包括的な債権譲渡予約が行われるケースがあります。

今回ご紹介するのは、包括的な債権譲渡担保契約が公序良俗違反として無効と判断された裁判例です。
日本でファクタリングが広く普及し始めるより前の平成6年における事例ですが、ファクタリング契約による資金調達の際にも参考になる内容です。ぜひ確認してみてください。

1.事案の概要

登場人物

原告は昭和30年以来、A社が個人商店として営業していた頃から長年A社と取引を継続してきました。なおA社が法人化したのは昭和45年です。
昭和61年頃には原告とA社との年間取引額は2億5000万円あまりにのぼり、原告はA社に対し、常時年間1億円程度の貸付残高がある状況になっていました。

平成3年頃、原告はA社へ3億円を融資しましたが、A社の代表者は原告に対し「実は粉飾決算を行っていて6億円ほどの欠損が発生した。年内の返済は困難」と言い、支払い期限の延期を求めました。
これを機に、原告はA社の帳簿類をみて経営状態を把握するようになりました。

譲渡債権担保契約の締結

平成4年、原告はA社との間で、原告が今後被告に対して有するすべての債権を担保するために債権譲渡予約を行いました。これが本件で問題となる譲渡債権担保契約です。
締結された契約の内容は以下の通りです。

担保される債権
現在や今後、原告がA社に対して有する(取得する)すべての債権
譲渡される債権
A社が11の取引先に対して有する(取得する)すべての債権

なお本件の被告は上記11の取引先に含まれる1社です。

債権譲渡通知書の交付

A社は原告に対し、記名押印した債権譲渡通知書を渡し、原告はいつでも債権譲渡通知書を送れる状態にしました。
債権譲渡通知書において、譲渡される債権の金額や第三債務者名は白紙となっており、原告が適宜補充できるようにされました。

債権譲渡通知の発送

その後もA社の経営状況は改善せず、平成5年頃にはA社代表者が原告に対し「これ以上やっていけない」と伝えました。これを聞いて原告は「A社は破綻した」と判断し、A社から預かっていた債権譲渡契約に日付と売掛代金を記入して、被告を含む取引先11社に対して内容証明郵便で発送しました。

被告による不払い、A社への手形決済

被告は原告から債権譲渡通知を受け取りましたが、押印の印影が普段取引しているA社の印影と違ったこと、通知書の発信局がA社の住所地と違っていたことからA社の代表者や取締役に状況を確認しました。すると代表者らは「債権譲渡していない」と延べたため、被告は原告には支払わず、A社に対し手形を交付して決済しました。

以上のように、原告は債権譲渡担保契約を行ったにもかかわらず被告がA社との間で手形決済を行ったために支払いを受けられませんでした。そこで原告は被告に対し、譲渡された債権者として支払いを求め、本件提訴を行いました。

2.裁判所の判断

裁判所は以下のように述べて、原告の主張を棄却しました。

特定性が不足していて原告に一方的に有利

本件で原告と被告が締結した債権譲渡担保契約は極めて包括的で原告に有利な内容となっていました。具体的には以下の点が問題となりました。

  • 担保される債権の内容や額が確定していない
  • 債権譲渡通知を発送できる時期も原告の判断に委ねられている
  • 11社の取引先のうち、どこに債権譲渡通知を送るかも原告の自由に決められる
  • 譲渡目的の債権額も原告が自由に書き入れることができて、限度額も定められていない
  • 原告が債権譲渡の権利を行使できる期間も限定されていない

A社の経営状況が危機的状況にあることを知りながらそれに乗じて締結された契約である

債権譲渡担保契約締結時、A社は経済的に危機的状況にありました。
原告はA社の窮状につけこんで不利な内容の契約を締結させたといえます。

公序良俗に反し無効

本件のような原告に一方的に有利な債権譲渡担保契約を認めると、原告は通知や登記などの公示手段を一切使わずに優先的な弁済を得られることになり、窮状にあるA社の利益を損なう著しく不公平なものとなります。
そこで裁判所は本件の債権譲渡担保契約を公序良俗に反して無効と判断しました。

結果として、原告の請求は無効な債権譲渡契約にもとづくものとなり全部棄却されました。

3.本件から学べること

本件では債権譲渡担保契約が無効と判断されています。
ここから学べるのは、以下の2点です。

包括的な債権譲渡は危険

本件で問題となったのは、債権譲渡担保契約の内容があまりに包括的だったことです。
担保の対象、譲渡される債権、原告が権利行使できる期間など何も決まっていませんでした。
あまりに包括的な債権譲渡は無効となる可能性が高くなります。
最高裁の判例(平成11年1月29日)でも、債権譲渡においては「発生原因や譲渡額、権利の始期と終期が特定されるべき」と判断されています。

債務者の窮状につけこむ契約は危険

加えて本件では、経済的危機に陥ったA社の窮状につけこみ、原告の一方的に有利な債権譲渡担保契約が締結された問題がありました。このように、相手の窮状に乗じて一方的な不利益を与える内容の契約を締結すると、公序良俗違反と判断される可能性が高まります。

現在、多くのファクタリングに関する裁判が起こっており、利用会社から公序良俗違反の主張が行われるケースも多々あります。
たしかに、今では本件の裁判例のように包括的な債権譲渡担保契約が締結されるケースは少数です。しかし、利用会社の窮状につけこんだ契約と判断される可能性は十分にあります。
ファクタリングを利用する企業は、たいてい資金繰りに窮しているためです。

ファクタリングを利用する際には、自社が苦しい状況であっても一方的に不利益な条件を押し付ける業者を利用すべきではありません。
たとえば買戻特約や償還請求権がついていて、不払いリスクを押し付けられる場合には貸金業法、公序良俗違反として無効と判断される可能性が高くなります。
ファクタリングによって資金調達を行うときには、ノンリコースのクリーンな営業スタイルの業者を選びましょう。

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