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金融裁判事例

事案の見解

ファクタリングで架空債権が譲渡された事例の控訴審

(東京高等裁判所平成28年(ネ)第5164号、平成29年6月15日判決言渡し)

ファクタリングを利用するとき、架空の債権をねつ造してファクタリング会社に提出し、譲渡代金をだまし取ろうとする悪質な会社があります。
本件は、虚偽の債権をファクタリング会社へ譲渡して1億円以上の譲渡代金をだましとった企業に対し、支払い命令が出た事案の控訴審です。
一審については以前にこのブログでご紹介していますので、よかったらご参照ください。
(東京地裁平成26年(ワ)第2654号)

1.事案の概要と原審の判断

本件で登場するのは、以下の人物や会社です。

  • ファクタリング会社(被控訴人)
  • ファクタリングを利用した会社(控訴人Y1)
  • ファクタリング利用会社の代表者(控訴人Y2)
  • 利用会社の取締役B
  • ファクタリング会社への顧客をあっせんしていたD
  • Dを補助していたC

Y1会社は、資金繰りに窮したために被控訴人へファクタリングを申し込みました。
その際、BとY2が共謀して東日本大震災の復興工事に関する架空債権をねつ造し、被控訴人(ファクタリング会社)へ提示しました。被控訴人は控訴人らを信用してしまい、額面1億3977万1800円の債権譲渡契約を締結。手数料を割り引いて1億2579万4620円を交付しました。

ところが実際には債権が架空だったため、被控訴人は譲渡債権を回収できません。第三債務者に請求したところ、架空債権であることが発覚。
被控訴人が控訴人Y1とY2を提訴すると、原審は被控訴人の主張を全面的に認め、Y1とY2に対して弁護士費用を含めた1億3829万4620円の支払い命令を下しました。

原審で認められなかった控訴人らの主張内容

原審で、控訴人らは以下のような主張を行いましたが、認められませんでした。

ファクタリングは債権譲渡を仮装した金銭消費貸借契約

本件のファクタリングは債権譲渡を仮装しているけれども実際には金銭消費貸借契約に該当するので、譲渡された債権が架空かどうかは問題にならないと主張しました。架空債権を譲渡しても詐欺にならないので支払い義務がないという理屈です。

 

被控訴人には過失相殺が適用されるべき

本件では、被控訴人のファクタリング業務を補助していたCやDが関与しています。
CやDが架空債権の譲渡を勧めたので控訴人らとしても架空債権の譲渡に手を出してしまったのです。このように履行補助者であるCやDの行為が関与している以上、「過失相殺」を適用して控訴人が請求できる金額を減額すべきと主張していました。

ところがこれらの主張がまったく認められなかったため、原審で敗訴した控訴人らが控訴を申し立てたのが、本件です。

2.控訴人らの主張

高裁で、控訴人らは以下のような主張を行いました。

本契約は実質的に金銭消費貸借契約である

控訴審においても、やはり「本件のファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約」と主張しました。根拠は以下の通りです。

  • ファクタリングの弁済金は、第三債務者からの回収金に限らず控訴人の資金から支出することになっていた
  • 債権譲渡の対抗要件を具備していない
  • 第三債務者への信用調査が不十分
  • 利率や支払い予定日が一定で、金銭消費貸借契約に類似する
  • ファクタリングの一連の取引は被控訴人にとってハイリスク・ハイリターンな金融取引であった

被控訴人には過失相殺が適用されるべき

本件では、被控訴人へ顧客をあっせんしていたDの補助者であるCが、被控訴人の商号を使った名刺を利用しており、このことを被控訴人自身も承諾していました。
また被控訴人と控訴人が打ち合わせを行う際には、C単独またはCとDの双方を介して行っていました。
そのような状況下において、被控訴人Y1の取締役であるBがCに「ファクタリングの手数料が高い」と相談し、窮状を訴えました。すると、Cが「見込み段階の工事案件をファクタリングに挙げるとよい」「見込み額も増額するとよい」などと提案、指示しました。
さらにCは「工事の出来高がなくても債権見込額をどんどん計上してかまわない」などとも述べました。

これを受けてBは見込み段階の架空債権をファクタリングに供したので、本件の架空債権譲渡にはCが深く関わっているといえます。

被控訴人はDとの間で顧客紹介契約を締結しており、密接に関連するCには営業用の名刺も渡していたのだから、過失相殺を適用すべきと主張しました。
たとえ詐欺の不法行為が成立するとしても、過失相殺によって金額が減額されるべきという主張です。

3.裁判所の判断

金銭消費貸借契約ではない

控訴審も原審同様、本件ファクタリングが金銭消費貸借契約であるという主張は否定し、詐欺による不法行為が成立すると判断しました。
金銭消費貸借契約でない以上、公序良俗にも違反しないので不法原因給付になりません。
被控訴人には控訴人らに対する請求権があると認定されました。

過失相殺が適用される

控訴審は原審を変更し、被控訴人に過失相殺を適用すべきと判断しました。
理由は以下の通りです。

  • Cは被控訴人の業務を補助していた
  • 被控訴人はCへ照合を記載した名刺を交付して営業させていた
  • Cは「架空債権を計上してもかまわない」「現地調査も行ったことにする」などと述べて、率先して架空債権の譲渡を進めた
  • 履行補助者であるCが架空債権譲渡のきっかけを作り、容易にした
  • 被控訴人は打ち合わせや現場確認をCやDに任せていた

こういった状況からすると被控訴人には何らかの過失があるといわざるを得ません。
「3割」の過失相殺を適用し、被控訴人が不法行為として控訴人らへ請求できる金額は9685万6234円へ減額されました。

控訴人Y2(会社)には不当利得が認められる

控訴人Y2(利用会社)は、架空債権を提示して無効な契約により、1億2579万4620円を取得しています。これは法律上「不当利得」となります。
そこで不法行為で過失相殺された3割分の「3773万8386円」については、控訴人Y2に不当利得としての返還義務があると認定されました。

裁判所が判決で出した結論

以上より、裁判所は以下のような判決を下しました。

  • 控訴人である利用会社(Y1)と代表者(Y2)に対し、被控訴人ファクタリング会社へ9685万6234円の支払い命令(不法行為)
  • 控訴人である利用会社(Y1)に対し、被控訴人ファクタリング会社へ3773万8386円の支払い命令(不当利得返還請求)

不法行為としては過失相殺が適用されたため原審より減額されましたが、残額については不当利得返還請求が認められたので、結局は全額についての請求が認容されました。

4.本件から学べること

本件では一審に続いて二審でも被控訴人(ファクタリング会社)の主張が認容されています。
ただし二審ではファクタリング会社に過失相殺が適用された点には注意が必要です。
本件のように「顧客紹介業者」を介して取引をしている場合、紹介業者が不正に関与するとファクタリング会社が事情を知らなくても過失相殺されてしまう可能性があるといえます。
他社や他人へ営業を外注する場合には、外注先の行動をしっかり監視すべきです。
利用会社の方も、架空債権の計上など不正行為にはくれぐれも手を出さないよう、注意しなければなりません。今後の参考にしてみてください。

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