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金融裁判事例

事案の見解

仮差押が不法行為に該当しないと判断された裁判例 ~東京地裁平成29年(ワ)第5560号、平成30年1月30日判決言い渡し~

ファクタリングを利用した会社が期日までに弁済できないと、ファクタリング会社が直接第三債務者へ請求する流れとなります。
第三債務者が支払いに応じない場合、ファクタリング会社が第三債務者の債権を差し押さえてしまうケースがあります。

本件では、ファクタリング会社へ譲渡された債権が架空であったにもかかわらず、第三債務者へ仮差押が行われました。後にファクタリング会社に権利がないことが確認されたため、第三債務者は「違法な仮差押によって損害を被った」としてファクタリング会社を提訴したのです。

結論的に裁判所は、ファクタリング会社の不法行為を認めませんでした。
以下で裁判に至る経緯や裁判所の判断内容をご説明します。

1.裁判に至る経緯

本件の原告は産業廃棄物処理などを目的とする会社で、被告はファクタリング会社です。

D社と被告のファクタリング契約

被告は原告の取引先であるD社とファクタリング契約を締結し、D社の原告に対する債権を譲り受けました。ところがD社が被告へ譲渡した債権は架空であったため、弁済期が来ても原告はD社へ支払いをしませんでした。

被告による仮差押

債権が架空でD社は弁済期が来ても被告へ支払わなかったため、被告は原告へ直接請求を行いました。原告は支払いに応じなかったため、被告は原告のO社に対する債権を仮差押しました。

O社による供託

O社は誰が真実の債権者かわからない状態となったため、被告によって仮差押をされた債権を供託しました。

原告による保全異議、保全抗告

原告は、実際には債権が存在しないにもかかわらず仮差押が認められてしまったので、保全異議や保全抗告を行いました。
保全異議は認められませんでしたが、抗告裁判所は「被保全債権は存在せず、原告が異議なき承諾をした事情もない」として、仮差押決定を取り消しました。

原告による供託金の払い戻し

仮差押が解かれたことにより、原告はO社が供託した1025万19円を払い戻しました。

ただし保全異議にかかる弁護士報酬が発生したので、代理人弁護士へ216万を支払いました。

被告の敗訴

その後、被告はD社から譲り受けた原告への債権の支払いを求めて訴訟を起こしましたが、原告への債権は架空で不存在であったため請求は棄却されました。

原告は「被告が違法な仮差押を行ったために弁護士費用等の損害が発生した」と主張し、被告へ裁判を提起したのが本件です。

2.争点

本件における争点は以下の2つです。

被告に不法行為が成立するか

1つ目の争点は「被告に不法行為が成立するか」という問題です。この点における原告と被告の主張内容を整理しましょう。

原告の主張

被告は不存在の債権をもとに原告に対して仮差押を行いました。しかし被告が起こした本案の裁判では敗訴して、被告に権利がなかったことが法的に明らかになっています。

このように仮差押命令が異議や上訴手続において取り消されたり本案訴訟で敗訴の判決が言い渡されて確定したりすると、特段の事情のないかぎり仮差押の申立に過失があったものと推認されます(最高裁昭和43年12月24日)。

原告としては「本案訴訟で敗訴しているので被告に過失が認められることは明らか」と主張しました。
また本件では架空債権が譲渡されているのでそもそも原債権が不存在ですが、それだけではなく被告とD社のファクタリング契約は貸金業法42条に違反する無効なものと述べ、やはり被告には過失があるといわざるをえない、と主張しました。

被告の反論

被告は以下のような事情により、過失を否定しました。

  • 原告へ債権譲渡通知を送った際、原告からは「債権が不存在である」という連絡がなかった
  • 原告代表者と面談したときにも架空債権であることを告げられなかった
  • 原告代表者に電話したときにも架空債権であることを告げられず、むしろ「支払う」ともいわれた
  • 被告が譲渡債権は不存在である事実を知ったのは、原告が保全異議を申立てたときが初めてであった
  • 地方裁判所は「原告は異議をとどめない承諾をした」として仮差押を認容した

以上のような事情からすると、被告が「債権が存在する」と信じたことはやむを得ないといえ、特段の事情があるので過失はないと主張。

被告に不法行為は成立せず、原告に対する損害賠償義務は発生しない、と結論づけました。

原告の損害額

原告は被告に対し、損害賠償金として243万4733円(うち弁護士費用216万円、利息相当額27万4733円)を請求しましたが、被告は支払い義務を否定しました。

3.裁判所の判断

被告に過失はない

  • 裁判所は、以下のような事情により被告の過失を否定しました。
    原告代表者は懇意にしているD社から「資金調達のために架空債権を譲渡したが、迷惑はかけない」と説明されたため、口裏を合わせていた
  • 被告が債権譲渡通知を送った際、原告は「架空債権である」と説明しなかった
  • 原告代表者と被告が面談した際にも、被告は架空であるという説明をしなかった
  • 原告の責任者(後の代表者)はD社との口裏合わせのため、被告に対し「支払いが遅れている理由」を説明するなどして積極的に架空債権の取引に協力していた
  • 地裁レベルでは仮差押が認められており、裁判所の判断も分かれた事案である

以上のような事情からすると、被告が「債権は架空」と気づかなかったことについてはやむを得ないと判断され、被告には過失がなかったと認定されました。

なお原告は「ファクタリング取引が貸金業法42条違反」であることを指摘しましたが、裁判所は「保全異議や保全抗告、本案訴訟などで貸金業法42条違反が争われた形跡はないし、仮に貸金業法42条違反であるとしても仮差押における被告の過失の有無の判断には影響しない」としました。

以上より、被告には不法行為が成立しないため、原告の被告に対する損害賠償請求は棄却されました。

4.裁判から学べること

本件では、架空債権にもとづいて仮差押が行われたところ、仮差押を受けた取引先がファクタリング会社へ損害賠償請求をしています。

結論的には取引先自身が架空債権のねつ造に協力していた事情が重く受け止められ、ファクタリング会社の過失が否定されました。

現実にファクタリングの利用会社と取引先が結託して、架空債権をねつ造するケースが少なくありません。しかし架空債権を譲渡すると、本件のように取引先の債権や資産がファクタリング会社によって仮差押されてしまう可能性があります。
後に「架空債権なので仮差押は認められない」と主張しても、仮差押が認容されてしまうと不利益が発生するでしょう。また利用会社と共同で詐欺行為を行ったとして、「詐欺罪」で告訴されるおそれもあります。

架空債権の譲渡には高いリスクを伴うので、取引先から頼まれても関与してはなりません。
自社でファクタリングを申し込むときはもちろん、懇意にしている取引先から「ねつ造に協力してほしい、迷惑をかけない」などと言われてもはっきり断りましょう。

このブログではファクタリングを取り巻く判例解説を行っています。ファクタリング会社さまやファクタリングを利用しようとする事業者さまはぜひ参考にしてみてください。

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