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金融裁判事例

事案の見解

未発生の債権が譲渡されてファクタリング契約の解除が認められた裁判例 東京地方裁判所平成30年(ワ)第10467号 貸金返還請求事件 平成31年3月19日判決言い渡し

本件は、ある会社がファクタリングサービスを利用するときに「未発生の将来債権」を譲渡対象にしたところ、債権が未発生となってしまったケースです。

裁判では「債権は結局発生しなかったので、架空債権の譲渡ではないか」が問題となりました。

つまりファクタリング契約時には債権が確定しておらず、その後も発生しなかったので結果的には「架空債権の譲渡」と同じ状態になってしまったのです。

結果的に裁判所はファクタリング会社による契約解除を認め、利用会社に対する請求を認容しました。

1.事案の概要

原告はコンサルティングやマーケティング業を行う会社で、被告は原告のファクタリングサービスを利用した建設業を営む会社です。

被告は資金調達のため178万円分の請負代金を原告へ譲渡し、手数料を差し引いて150万円を受け取りました。ただし契約当時、請負代金のもととなる工事は確定しておらず、あくまで「将来行うべき工事」でした。つまり債権は未発生だったのです。

またファクタリング取引には以下の条件が付されていました。

  • 被告は譲渡する請負債権について、解除や取り消し、無効や相殺などの支払拒絶事由がないことを保証する
  • 相手方が契約に違反して契約目的を達成できない場合には、お互いに解除ができる
  • 取引先からの集金は被告が行うこととし、集金したお金は速やかに原告へ支払う

ところが工事が結局行われなかったため予定日を過ぎても被告は集金できず、見通しも不明の状態でした。そこで原告と被告は協議して、被告が原告へ支払うべき178万円について「準消費貸借契約」を締結しました。

2.原告の主張

準消費貸借契約にもとづく請求

原告としては、178万円について有効な準消費貸借契約が成立しているので、契約にもとづいて178万円と遅延損害金の支払いを求めました。こちらが本件の主位的請求です。

解除にもとづく主張

原告は予備的に、契約解除にもとづく請求も行いました。

すなわち被告は未発生の請負債権をさも権利があるかのように装ってファクタリングに提供しましたが、これは「架空債権の譲渡」であり、原告における契約解除事由に相当します。

そこで原告は契約を解除し、被告へ渡した150万円の返還と遅延損害金の支払いを求めました。

3.被告の反論

被告は以下のように反論しました。

架空債権ではない

確かにファクタリング契約締結時には請負債権が未発生でしたが、発生する予定があったので、被告としては「架空債権」ではないと主張しました。

ただ予想外の不可抗力によって工事が不能となっただけであるという説明です。

強迫による取消(無効)

次に準消費貸借契約については「強迫によって無効となる」と主張しました。

すなわち譲渡した請負債権のもととなる工事を進められない中、被告は原告から呼び出され「詐欺で告訴する。逮捕されるだろう」などと脅されたというのです。

強迫により意思に反して準消費貸借契約書に署名押印させられたため、準消費貸借契約は無効という主張です。

解除に対する相殺

原告の解除に対しては、相殺を主張しました。

被告は本件ファクタリング契約を締結する際、原告に事務手数料・書類作成費として6万円、交通費として2万5000円の合計8万5000円を支払っていました。そこで、原告が請求する150万円から8万5000円を差し引くべき、と主張したのです。

4.裁判所の判断

裁判所は以下のように述べて、原告による予備的請求(解除)を認めました。

準消費貸借契約は成立しない

まず主位的請求である準消費貸借契約については「成立しない」と判断されました。

本件で、被告は原契約にもとづく工事を実施しておらず、譲渡された請負代金債権は結局発生していないままでした。そうなると、被告による集金業務の不履行も観念できず、原告において不履行による損害も発生しないと考えられます。

準消費貸借契約が成立するには、もととなる「旧債務」の存在が必要です。しかし本件では消費貸借の目的とされた「旧債務」が存在しないので、準消費貸借契約は成立しないと判断されました。

以上より、原告の主位的請求である準消費貸借契約にもとづく請求は棄却されました。

解除(予備的請求)は認める

次に、原告による予備的請求である解除は認められました。

ファクタリング契約の締結時において被告が第三債務者に対して請求可能な債権を有していることは、契約の大前提となる重要事項です。

しかし実際には契約締結時、原契約にもとづく工事の出来高は存在せず、被告の報酬請求権も発生していませんでした。

すると被告が確約した契約条件に反するといえ、ファクタリング契約の解除原因に相当します。

よって原告は本件ファクタリング契約を解除して、被告へ原状回復を請求できると判断されました。

相殺は認めない

被告は、ファクタリング契約の解除が認められるとしても、被告が負担した契約締結費である8万5000円は返還される必要があるから相殺が認められるべきと主張しました。

しかし契約締結費用を被告が負担する旨の合意はファクタリング契約とは別個の合意であり、ファクタリング契約そのものではありません。

よってファクタリング契約を解除するとしても、原状回復の範囲には含まれないとして、裁判所は被告による相殺の主張を否定しました。

最終的に本件判決では、原告の予備的請求である解除にもとづく150万円と遅延損害金の請求のみが認められました。

5.判決から学べること

ファクタリング契約では確定した債権のみを対象とすべき

本件では、未確定の将来債権が譲渡された結果、未払いが発生しています。

ファクタリング会社は回収のために準消費貸借契約を締結しましたが「原債権が未発生なために準消費貸借契約は成立しない」と判断されてしまいました。

このように、「ファクタリング契約時に確定していない債権」を対象としてしまうと、ファクタリング会社が債権回収を行うのは困難となるリスクが高まります。

ファクタリング会社が債権の審査を行う際には、もととなる債権が「現に確実に発生しているか」を慎重に確認すべきと言えるでしょう。

解除条項の存在は重要

一方、予備的請求である「解除」は認められ、ファクタリングは利用会社へ払った代金の取り戻しが可能となっています。

利用会社としては「架空債権ではなく未確定だっただけである」と主張しましたが、たとえ未確定であっても解除原因になると判断されたのです。

ファクタリング会社としては、契約においてきちんと解除事由を定めておけば、万一架空債権や未確定債権を譲渡されたときでも、最低限支払った代金の取り戻しは可能となるといえるでしょう。

ファクタリングを利用する場合の注意点

本件被告である利用会社は将来の未確定債権をファクタリングに提供したため「架空債権の譲渡をした」と責められ準消費貸借契約を締結することとなったり裁判トラブルに巻き込まれたりしています。

こういったリスクを防ぐため、ファクタリングを利用するときには「現に確定している債権」のみを対象とすべきです。

「確実に発生するだろう」と考えていても、本件のように予想外の事情で発生しなくなってしまう可能性があります。

架空債権でなくても、不確定債権をファクタリングに提供するのは控えましょう。

本件の裁判解説を、ファクタリングに関与するみなさまの日々の業務にお役立ていただけましたら幸いです。

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