プライバシーマーク
  • お問い合わせはこちら

    0120-91-8721FAX 03-6258-1031

  • お問い合わせフォーム

金融裁判事例

事案の見解

破産管財人による供託金取戻請求権が認められファクタリング会社が敗訴した裁判例~東京地方裁判所 平成30年(ワ)6476号 平成30年11月28日判決

ファクタリングを利用した会社が破産すると、破産管財人がファクタリング会社へ訴訟を起こすケースが多々あります。

本件は、ファクタリングを利用した会社の破産管財人が「供託金取戻請求権」の確認を求めてファクタリング会社を提訴した事例です。

結果的には破産管財人による請求が認められ、ファクタリング会社側は敗訴しました。

事案の概要が裁判所の判決内容等、ご説明します。

1.事案の概要

当事者

本件の原告は、破産した会社(以下「A社」といいます)の破産管財人です。

被告は破産会社が破産前に利用したファクタリング会社です。

ファクタリングサービスの利用と譲渡禁止特約

A社は資金繰りに窮し、被告のファクタリングサービスを利用しました。

譲渡対象の債権はA社の百貨店2社に対する売掛債権でしたが、2つとも「譲渡禁止特約」がつけられていました。

またA社は被告のファクタリングサービスを利用する前にも別のファクタリング会社(以下「B社」といいます)でファクタリングを利用し、債権の二重譲渡を行っていた事情もありました。

被告もB社もほぼ同時期に売掛先の百貨店2社に対して債権譲渡通知を送り、対抗要件を具備しました。

供託

A社の売掛先である百貨店2社は被告やB社から債権譲渡通知を受け取りましたが、そもそも売掛債権には譲渡禁止特約がついていました。

改正前の民法では、譲渡禁止特約つきの債権を譲渡しても債権譲渡は「無効」です。ただし譲受人が悪意または重過失の場合、債務者は譲受人に対する支払いを拒めます。

売掛先の百貨店2社にしてみると「譲受人であるファクタリング会社が悪意または重過失」といえるのか、定かではありません。

加えて本件では債権が二重に譲渡されていたので、弁済先候補が「A社」「被告」「B社」3社となり、百貨店2社にしてみると、どこへ弁済すればよいかまったくわからない状態となってしまいました。

そこで百貨店2社は債権を供託しました。

破産管財人による提訴

その後A社は経営破綻状態に陥り破産を申し立て、原告が破産管財人に就任しました。

原告は「被告とB社は債権譲渡特約について悪意または重過失があった」として債権譲渡は無効であると主張し、百貨店2社による供託金取戻請求権はA社にあるとして、供託金還付請求権の確認を求めて提訴しました。

2.争点

本件で争点となったのは、以下の2点です。

ファクタリング会社に悪意または重過失があるか

まずは被告が債権譲渡禁止特約について悪意または重過失であったかどうかが問題となりました。

原告としては、以下の理由により「被告は悪意重過失」と主張しました。

  • 被告は多数のファクタリング取引を行っている専門業者であり、譲渡禁止特約の意味や効果についても熟知している。それにもかかわらず譲渡禁止特約を知らなかったはずはない
  • 仮に知らなかったとすると、譲渡禁止特約について調査しなかったことに重過失がある

被告は以下のような理由で「善意無重過失」と主張しました。

  • A社によるファクタリングの申込みは急であり「当日中に振り込んでほしい」といわれたので、譲渡禁止特約がないことについては口頭ベースでしか確認ができなかった
  • 売掛先が大手百貨店であり信用力が十分なので、詳細な確認や審査は不要と考えた

債権譲渡通知が有効か

本件では、百貨店2社に対する債権譲渡通知の有効性も問題となりました。

本来、債権譲渡通知書は「譲渡人」が作成、発送しなければなりません。

しかし本件でA社は被告に債権譲渡通知書の作成と発送を委託したので、譲受人である被告が作成・発送していました。

そこで原告は「通知書はA社が作成したものではないので無効」と主張したのです。

一方、被告は「A社から委任を受けて代理人として作成・発送したものだから有効」と反論しました。

3.裁判所の判断

裁判所は結論的に「被告は悪意重過失」として原告の主張を認めました。

被告が悪意重過失である理由

裁判所が「譲渡禁止特約について悪意重過失」と認定した理由は以下のとおりです。

  • 裁判に至ってからの被告代表者の供述が変遷しており不自然
  • 被告代表者の供述内容に不合理な点がある
  • 被告はA社とのファクタリング契約締結時、基本契約書や譲渡禁止特約の有無について確認した形跡がない
  • 被告は多数のファクタリング取引を経験しているファクタリング業者であり、百貨店相手の債権を譲り受けた経験もあったはずで、その中には譲渡禁止特約が付されたものも多かったはずである。そうだとすれば確認を怠ったことについて重過失がある

なお「譲渡禁止特約つきの債権を譲渡した譲渡人自身は債権譲渡の無効を主張できない」とする判例がありますが(最高裁平成21年3月27日 第二小法廷)、破産管財人は破産会社とは異なる立場で独立した立場であるから、無効を主張できることも付言されています。

以上より、被告は「悪意または重過失」があるため、債権譲渡は無効と判断されました。

供託された債権と譲渡された債権の不一致

加えて本件では「被告へ譲渡された債権と百貨店2社によって供託された債権が一致しない」とも指摘されました。譲渡された債権の発生時期と供託された債権の発生時期が一致しなかったためです。

「そもそも別の債権」であれば、被告には供託金に対する権利が一切認められません。

供託金取り戻し請求権は原告にある

以上からすると、供託金取り戻し請求権は全面的に原告にあるといえるので、原告の主張が認容されました。

4.判決から学べること

ファクタリング会社は「譲渡禁止特約」についての調査を慎重に

本件ではファクタリング会社に「悪意重過失」があるとされ、ファクタリング会社の供託金への権利が認められませんでした。悪意重過失が認められた理由は、ファクタリング会社が審査の際に「基本契約書」や「譲渡禁止特約」についてしっかり確認しなかったためです。

譲渡禁止特約についての確認を怠ると、本件のように後に供託されたときに悪意重過失が認定され、供託金の取戻が認められなくなるリスクが高まります。ファクタリング業務を行う会社は、必ず基本契約書や個別契約書を参照して譲渡禁止特約がついていないことを確認してから決済すべきといえるでしょう。

民法改正による影響

本件は改正前の民法をもとに判断されていますが、現在は民法が改正されたため、譲渡禁止特約がついていても債権譲渡契約は「有効」となります(改正前は無効とされました)。ただし改正民法においても、債務者は悪意重過失の譲受人に対する支払いを拒めます。改正民法のもとにおいても、やはり譲渡禁止特約の確認は必須といえるでしょう。

二重譲渡のリスクについて

本件でA社は債権の二重譲渡を行っています。

二重譲渡によってファクタリング会社に損害を発生させると損害賠償をしなければならない可能性がありますし、場合によっては「詐欺罪」の責任を問われるリスクも発生します。ファクタリングを利用して資金調達するとき、二重譲渡をしてはなりません。

今回の裁判例も学びの多い内容です。ぜひとも今後の参考にしてみてください。

お問い合わせ

まずは無料相談をお試しください。

0120-91-8721

FAX: 03-6258-1031