ファクタリング業者とユーザーが和解によって裁判を終わらせた例
ファクタリングを利用した中小事業が、後にファクタリング会社に対して「貸金契約」と主張し、金銭の支払を求める例が少なくありません。
そういった案件の中には、最終的に「和解」によって解決するものもあります。
今回は一審判決後、控訴審でファクタリング会社とユーザーが和解した事例をご紹介します。
1.事案の概要
原告(ユーザー)は資金繰りの必要性を感じ、インターネットで被告J社の提供するファクタリングサービスを見つけました。J社のホームページには「ファクタリング」と明記されており、貸金契約と間違えるような記載は特にありませんでした。
そして原告はJ社に対し、ファクタリングの利用を申し込みました。
当初は額面額が100万円の債権を譲渡して60万円を調達し、その後も約1年にわたってファクタリングの取引を繰り返しました。
最終的に譲渡された債権額の合計は約4,000万円、原告へ交付された金額は約3,300万円となりました。
ところが原告はその後「本件は実質的に貸金契約である」と主張。利息制限法への引き直し計算によって「491万6,209円が過払いになる」として、J社へ返還を求めました。
J社側は「本件は債権譲渡契約であり、貸金契約ではないので利息制限法の適用はない」と反論。支払い義務はないとして拒否しました。
また原告による提訴後、J社は原告に対し「反訴」を提起。最後に債権譲渡を受けた分の313万円の回収金がJ社へ払われなかったので、その支払いを求めたのです。
本件をまとめると以下の通りです。
- 原告(ファクタリングユーザー)がファクタリング業者J社へ、本件ファクタリング契約が「貸金契約である」ことを前提に過払い金を請求
- J社が原告へ、本件ファクタリング契約が「債権譲渡契約」であることを前提に未払いの回収金を請求
この2点が争われた裁判です。
2.原審の判決
原審(大阪地方裁判所平成29年3月3日)は、以下のように判断しました。
2-1.本件契約は貸金契約である
原審は、本件のファクタリング契約が「貸金契約」と判断。原告の主張を認めました。
理由は以下の通りです。
「債権譲渡であれば、買主であるJ社が回収リスクを負うべきである。それにもかかわらず、本件でJ社は回収リスクをほとんど負っていない」
J社が「回収リスクを負っていない」と判断された理由としては、おそらくは「J社が原告に債権回収を委託していた事情」が重視されたと考えられます。また詳細は明らかではありませんが、J社による債務者に対する審査が甘かった可能性もあります。
2-2.公序良俗には反しない
原審も、本件のファクタリング契約が公序良俗に反するとは認定しませんでした。
J社の設定する金利が著しく高利であったとまではいえず、本件の取引が暴利行為であったとはいえないと結論づけています。
以上より、原審はJ社に対し過払い金として「467万4,182円」の返還命令を下しました。
3.和解内容
J社は納得せず、大阪高等裁判所へ控訴。控訴審でも、同様の主張と反論が繰り広げられました(大阪高等裁判所平成29年(ネ)第959号)。
ただし控訴審は、判決を待たずに「和解」で解決。
和解内容は以下の通りです。
- J社は原告へ233万7,091円を支払う
- 原告は、J社が強制執行停止のために供した担保の取り戻しに同意する
結果的に、J社は原告に対し、原審で認められた金額の「半額」を支払う内容で和解しています。
このような解決方法になったのは「どちらが勝つか分からない」ので、両者痛み分けによって解決したのでしょう。
判決を待てば、どちらも負ける可能性がそれなりにあるので、リスクを半分ずつ負担して話し合いで解決したものと考えられます。
またJ社としては強制執行を停止するための担保をつんでいたので、その取り戻しをしたかった事情もあったかもしれません。
4.本件から学べること
本件からは、以下のようなことを学べます。
4-1.ファクタリング業者が敗訴するケースもある
これまでこのサイトでは「中小事業者がファクタリング会社を相手に『貸金契約』を前提として過払い金返還請求を求めても認められないケースが多い」と説明してきました。
ところが本件の原審(大阪地方裁判所)は契約が「貸金契約」であると認定し、ファクタリング会社を敗訴させています。
なお本件で買い戻し特約がついていたかどうかは不明ですが、特段そういった記載はみられません。おそらくはついていなかったとも考えられます。
ファクタリング業者が必ず裁判に勝つとは限りません。中にはファクタリング契約を「貸金契約」とする判断が出る裁判例もあることを、まずは押さえておきましょう。
4-2.原審でファクタリング業者が負けても控訴審で覆る可能性がある
本件では控訴審で、「ファクタリング業者が原告へ半額を支払う」内容で和解しています。
これはいわゆる「痛み分け」の和解です。半額ずつの負担なので、どちらが有利になったわけでもありません。
本件のように控訴審で痛み分けの和解になる場合、裁判官が控訴人(ファクタリング業者)に有利な心証を抱いていた可能性があります。もしも被控訴人(ユーザー)に有利な心証を抱いている場合、一審で勝訴している被控訴人には譲歩する必要がないからです。
おそらく裁判所が被控訴人に対し「このまま判決になれば、原審の判断が覆る可能性が高い」と説得したのでしょう。そうでなければ、一審で勝訴した被控訴人は半額への妥協をしないのが通常です。
この件でもしも両者が和解せず判決が出ていれば、原審が覆って被告J社が勝訴した可能性も十分にあるともいえるでしょう。
4-3.和解で解決する方法もある
3つ目に本件から学べるのは「裁判は、和解による解決方法がある」ことです。
一般の方には「裁判になったらとことん争わざるを得ない」と考えてしまう傾向があります。
しかし現実には、本件のように裁判官の勧告によって話し合いで裁判を終わらせる「和解」のケースが少なくありません。
和解すると、裁判を早期に終わらせることができて時間や労力の節約になります。
原告からしてみると、強制執行なしに早めに半額のお金を回収できるメリットがあるでしょう。
被告にしてみると、全額の支払い命令を避けられることや強制執行を避けられること、担保金を取り戻せるメリットもあったと考えられます。
裁判になったからといって必ず最後まで争う必要はありません。今後トラブルに巻き込まれたときに備えて、知識として押さえておいてください。
5.まとめ
ファクタリングを巡る裁判例はたくさんあります。多くのケースではファクタリング業者が勝訴していますが、ときには本件原審のようにファクタリング業者が敗訴する事案もみられます。
ファクタリング業者としては、以下のような点に注意すべきといえるでしょう。
- 買い戻し特約は絶対につけない
- 契約時には「債務者の審査」をしっかり行って記録を残す
- ユーザーに回収を委託する場合には、回収事務委託契約書などを別途締結する
こういった配慮をしていれば「貸金契約」と認定される可能性は低くなると考えられます。今後の参考にしてみてください。