ファクタリングが金銭消費貸借契約か債権譲渡契約かが争われた裁判例
ファクタリングを利用した後、ファクタリング会社へ「過払い金請求」を行う企業が少なくありません。おそらくは、弁護士に相談したところ「ファクタリングは金銭消費貸借契約なので過払い金が発生する」とアドバイスされるためと考えられます。
しかしこのブログでも何件もの裁判例を紹介しているとおり、事業者の2社間ファクタリングは必ずしも金銭消費貸借契約になりません。むしろ「債権譲渡契約」と認定され、中小企業側の請求が棄却される例が数多くみられます。
今回ご紹介するのもユーザー企業がファクタリング会社に過払い金を請求し、棄却されたものです。
さっそく内容をみていきましょう。
1.訴訟に至る経緯
原告は地方の中小企業です。資金繰りのため、計16回にわたって被告会社のファクタリングサービスを利用しました。
譲渡された債権の額面額は合計で7430万円でしたが、そこからファクタリング会社(被告)の手数料が1030万円差し引かれたため原告へ渡された金額は合計で6400万円。
手数料の割合は譲渡された債権によってまちまちでしたが、概ね11~15%程度に設定されていました。
2社間ファクタリング
一般的に「ファクタリング」というと、取引先には債権譲渡通知を送らない「2社間ファクタリング」が圧倒的に多数です。本件で利用されたファクタリングサービスも2社間ファクタリングであり、債権回収に関しては被告(ファクタリング会社)から原告(中小企業)へ回収委託されていました。よって被告から各取引先へ債権譲渡通知も送られていませんし債権譲渡の登記もされていません。
原告は契約とおりに債権を回収し、被告会社へ支払いました。
過払い金請求
ところがその後、原告は被告へ「今回のファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約なので、手数料(利息)の支払いすぎになっている、返還してほしい」と主張し始めたのです。
原告が計算した過払い金の総額は961万8762円でした。
被告は「ファクタリング契約は債権譲渡契約なので利息制限法の適用はなく、過払い金は発生しない」と主張して支払いを拒否しました。
そこで原告が被告に過払い金請求訴訟(不当利得返還請求訴訟)を起こしたのが今回の裁判です。
2.原告の主張内容
裁判において、原告は「本件のファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約」と主張しました。金銭消費貸借であれば「利息制限法」が適用され、原告の設定した手数料率が違法になります。利息制限法では100万円以上の貸付金の場合、利息の上限利率は15%です。本件の手数料率を年率に換算するとその10倍やそれ以上になっていました。
そこで原告は、「利息制限法を超過する961万8762円は返してもらわねばならない」と主張したのです。
原告が金銭消費貸借契約と主張した根拠
本件で原告がファクタリング契約を「金銭消費貸借契約」と主張した根拠は以下の通りです。
- 被告の得る利益が高額すぎる
- 手数料割合が一定で、取引先の個性を考慮していない
- 反復継続しており件数が多い
- ファクタリングの目的は資金の融通であった
- 被告は債権回収できなかったときのリスクを負っていない
- 債権譲渡の通知や取引先の承諾が行われていない(債権譲渡の対抗要件が備えられていない)
- 2社間ファクタリングは手形取引と同様に考えられるので貸金業法が適用される
3.被告の主張
被告は上記原告の主張を全面的に否定しました。
4.裁判所の判断
裁判所は、以下のような理由により、原告の主張を認めませんでした。
ファクタリング契約の性質は「不払いリスク」の危険負担者によって判断すべき
裁判所は、ファクタリング契約が債権譲渡か金銭消費貸借かで争われたとき、基本的に「取引先が不払いを起こしたときの危険を負担するのは誰か」によって判断すべきとしています。ファクタリング会社が負担するなら債権譲渡契約、ユーザー企業が負担するなら金銭消費貸借契約という結論になります。
ユーザー企業が不払いリスクを負う場合、回収不能となればユーザー企業が肩代わりしてファクタリング会社へ支払わないといけません。それではお金を借りたのと同じ状態になってしまいます。そこでユーザー企業が不払いリスクを負うなら「実質的に金銭消費貸借契約」といえます。
本件のファクタリング契約では、債権回収が不能となったときに被告がリスクを負担すべき内容になっていませんでした。買戻特約もついておらず、いわゆる「ノンリコース」の契約内容だったのです。
よって裁判所は、本件契約は金銭消費貸借契約ではなく債権譲渡契約なので利息制限法の適用はなく、原告による過払い金請求は認めないと結論を下しました。
その他の原告の主張について
原告が述べた種々の主張に対し、裁判所は以下のように述べてすべて排斥しました。
- 被告の得る利益が高額とはいえ、診療報酬債権のファクタリングなどの事例と比べても著しく高額すぎるとはいえない
- 本件で設定された手数料率にはばらつきがあり、取引先の個性が考慮されている
- 反復継続されており件数が多いからといって金銭消費貸借になるわけではない
- 原告は不払いリスクを負っていた
- 対抗要件を備えない2社間ファクタリングであっても債権譲渡契約は成立する
- 本件では買戻特約も設定されておらず、ファクタリング契約が手形取引と同様とはいえない
結論
本件では金銭消費貸借を前提とした原告の主張が全面的に排斥され請求は棄却、被告の全面勝訴となりました。
なお本件については判決後、原告が控訴したようです。今後の高裁の判断を待ちたいと思います。
5.本件から学べること
本件で原告は「ファクタリング契約が金銭消費貸借契約」と主張して過払い金請求をしています。
この点について裁判所は「取引先の不払いが生じた場合の危険をどちらが負っているか」で判断すべきという規範を示しました。ファクタリング会社が危険を負っていたら債権譲渡契約、ユーザー企業が危険を負っていたら金銭消費貸借契約とする判断枠組みです。
通常、2社間ファクタリングの事例ではファクタリング会社が不払いの危険を負っているものです。よって多くの場合、ファクタリングを利用した中小企業が過払い金請求をしても棄却されてしまうと考えられます。
ただし「買戻し特約」がついているなどの方法で「利用会社が実質的に不払いの危険を負っている」といえる場合、ファクタリングは金銭消費貸借契約になります。
ファクタリング会社が注意すべきこと
ファクタリング会社としては、「ユーザー企業にリスク負担させている」と思われないよう、自社で用意する契約書の文面に注意すべきといえるでしょう
ユーザー企業が注意すべきこと
ユーザー企業としては以下の点に注意してください。
- 「買戻し特約」がついているような違法なファクタリング会社を利用しない
- 万一違法なファクタリング会社を利用してしまったら過払い金請求が可能
- 買戻特約がついておらずノンリコースの2社間ファクタリングでは過払い金請求できない
この3点を押さえておけば、間違いは起こらないと考えられます。
ぜひ今後の参考にしてみてください。