ファクタリング利用会社の破産管財人によるファクタリング業者への訴えが棄却された事例
ファクタリングを利用しても資金繰りが改善されず、破産してしまう企業は少なくありません。
そんなとき、ファクタリング利用会社の「破産管財人」が、過去に利用したファクタリング業者に対して金銭の返還を求めるケースが多々あります。
今回は破産会社の管財人がファクタリング業者を訴えた結果、請求がすべて棄却された裁判例をご紹介します。
1.事案の概要
運送業を営んでいたM社(以下M社という)という会社の破産管財人がファクタリング会社2社・I社とP社(以下ファクタリング会社2社という)を訴えた事例です。
1-1.債権譲渡契約が無効であると主張
M社は資金繰りが苦しくなり、ファクタリング会社2社へ多数の債権譲渡を行い、代金を受領して資金繰りに充てました。その後結局、M社は体制を持ち直すことができずに破産を申請。
するとM社の破産管財人は、ファクタリング会社2社との債権譲渡契約を「実質的には金銭消費貸借契約」であると主張し、利息制限法を潜脱するものとして「無効」と主張しました。また「破産債権者を害する行為である」として、破産法によっても否認を主張しました(破産法160条)。
1-2.供託金の取り戻しが無効と主張
本件では、売掛債権の第三債務者が売掛金の支払先を確定できずに「供託」を行っています。ファクタリング業者であるI社は、M社の承諾のもとに供託金を取り戻しました。これについてもM社側は「債権者を害する行為である」として返還を求めたのです。
1-3.債権譲渡登記の効果も争いになる
債権譲渡登記の効果も争われました。本件では多数の売掛金譲渡が行われたこともあり、個別に債務者を特定しないで抽象的な登記が行われた例が一部あったためです。
2.裁判所の判断(地方裁判所平成30年9月12日)
地方裁判所は、本件について以下のように判断し、原告の主張を却下・棄却しファクタリング業者側を全面的に勝訴させました。
2-1.ファクタリング契約は金銭消費貸借契約ではない
M社側は、本件ファクタリング契約は「実質的に金銭消費貸借契約(貸金契約)である」と主張しました。貸金契約であれば、利息制限法による制限利率が適用されます。本件ファクタリング契約では、利息制限法を大きく上回る「手数料」が差し引かれていたので、これは利息制限法を潜脱する不当な取引であると主張したのです。
もちろんファクタリング業者側は「正当な債権譲渡契約であり、有効」と反論しました。
裁判所は「契約締結の過程においてファクタリング業者側ははっきり債権譲渡契約であると説明しており、M社側も責任者が納得して契約している」として、本件契約が債権譲渡契約であると認定。原告側の主張を認めませんでした。
また原告側は「本件のファクタリング契約は実質的に『譲渡担保契約』と変わらない」とも主張しました。譲渡担保契約とは、お金を貸し付けるときに「物」を預かり、支払われないときに物を回収してしまう契約です。車のローンなどでよく利用されています。物を担保としてお金を貸し付ける契約と理解すると良いでしょう。
裁判所はこの点も否定。本件は譲渡担保契約ではなく純然たる債権譲渡契約であると認定し、原告側の主張を排斥しました。
2-2.ファクタリング契約は「債権者を害する」ものではない
M社側は「本件ファクタリング契約は破産債権者を害するもの」として、無効を主張しました。
破産法によると、破産者が破産前に第三者と取引をしたとき、両者が破産債権者を害することを知っていたらその行為が無効になると規定されています(破産法160条)。その場合、破産管財人は「否認権」を行使して、譲渡された財産を取り戻せるのです。
ファクタリング契約が行われると、会社の売掛金が目減りして他の一般債権者に不利益が及ぶことから、破産管財人は否認権を行使してファクタリング業者側から売掛金を取り戻そうとしました。
裁判所は「ファクタリング契約が締結されたとき、まだM社は債務整理の手続きを開始していなかった」ことなどから、ファクタリング契約は「債権者を害すると知って行われたとはいえない」と認定。原告の否認権を認めませんでした。
2-3.供託金の取り戻しは有効
本件では、第三債務者が供託した金銭をファクタリング業者が取り戻した効果についても争われています。
M社側は「供託金の取り戻しは『債権者を害する行為』である」として、否認権を行使しようとしました。その際、「供託金取り戻しの請求書はファクタリング業者が偽造した」とも主張しました。
これらの点についても裁判所は否定。
供託金の取り戻しは、それ以前に有効に成立したファクタリング契約(債権譲渡契約)にもとづいて行われたものであり、違法性が認められないと判断しました。そこで破産管財人による否認権の対象にはならないと結論づけました。
また「ファクタリング業者が供託金取り戻し請求書を偽造した」という点についても、破産会社の言い分が不合理であったことから認めず、排斥しました。
結果としてファクタリング業者による供託金取り戻しは有効と判断されたのです。
2-4.債権譲渡登記は有効
本件では、ファクタリング業者が行った債権譲渡登記の有効性も一部問題となりました。
多数行われた債権譲渡登記のうち、一部では第三債務者の特定が不完全だったからです。
裁判所は、確かに債務者が特定されていないのは事実であるが、債務の発生時期や債務の種類がある程度特定されていたので、登記は有効と判断しました。
この点においても原告の主張が否定されています。
3.結論
結論として裁判所は、M社側の主張を全面的に否定し、訴えを却下・棄却しました。
4.本件からいえること
一般に「ファクタリング契約は貸金業法、利息制限法の潜脱であり不当」「ファクタリング業者は闇金と変わらない」といわれるケースが少なくありません。ファクタリングに対するマイナスイメージが蔓延しているといえるでしょう。しかし本件で、裁判所は「ファクタリング契約は債権譲渡であり、貸金契約ではない」とはっきり認定しています。
またファクタリング利用会社が破産に至ったとき、過去のファクタリング契約が「破産債権者を害する」として否認の対象になるかが争いになるケースも多々あります。この点についても本件では、明確に「否認の対象ではない」と判断されました。実はこの裁判例と同様、原告による否認権行使が否定される裁判例は数多く存在します。
つまり世間一般における「ファクタリングは闇金」「法の潜脱」という理解の多くが、実際には「誤解」といえるでしょう。
ファクタリングは企業にとって重要な資金調達方法の1種。間違った思い込みによって安易に排斥すべきではありません。今後、ファクタリング契約を利用するときの参考にしてみてください。