ファクタリング会社に対する過払い金請求が認められなかった裁判例
ファクタリングを利用して資金調達をしておきながら、後にファクタリング会社に対して「利息制限法違反」と主張し「過払い金請求」を行う中小事業者が多数存在します。
今回はファクタリング会社に対する過払い金請求が認められなかった裁判例を、判決の理由とともにわかりやすくご紹介します(東京地方裁判所 平成31年4月23日)。
1.事案の概要
本件の原告は、資金調達のために被告J社によるファクタリングサービスを利用した業者です。
契約当時、原告は約3,000万円の負債を抱えており、銀行口座を差し押さえられるなどして経営に行き詰まっている状況でした。
そんなとき、J社を通じて複数回にわたって債権譲渡によるファクタリングを利用し、再生に必要な資金を調達したのです。譲渡した債権の額面額は約4,084万円、手数料が割り引かれたため原告が受け取った金額は約3,540万円でした。割引率はおよそ13.4%となっています。
ところが原告は、後になって「本件のファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約であり、利息制限法に違反する」「636万3,877円が過払い金となっている」として、J社に対して過払い金請求を行ったのです。
また原告は「本件のファクタリング契約はJ社が原告の窮状につけ込んで著しく不利な条件を押しつけたものであり、暴利行為として無効」とも主張しました。
つまり、原告が被告に対し、以下の2つの主張をした事例といえます。
本件ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約であり利息制限法違反となっているので、過払い金返還請求する
本件ファクタリング契約は暴利行為で無効なので、金銭の返還を求める
それぞれの点について、裁判所の判断内容を見ていきましょう。
2.裁判所の判断
2-1.ファクタリング契約は金銭消費貸借契約ではない
まずは「本件ファクタリング契約が金銭消費貸借契約なのか」という点について、裁判所の判断内容をご説明します。
裁判所は、以下の点を重視して「本件ファクタリング契約は債権譲渡契約であって金銭消費貸借契約ではない」と判断しました。
本件契約締結の経緯
まずは本件の契約締結経緯が考慮されています。
J社はホームページ上で「ファクタリング取引」をうたっています。そもそもファクタリングは、債権譲渡契約であって貸金契約ではありません。
また原告との取引においては「債権売買基本契約書」が作成されており、「債権譲渡」であることが明記されています。
さらに契約締結時、原告は約3,000万円の負債を負って窮地に陥っており、自らJ社へファクタリングを申込みました。
こういった状況を踏まえると、本件契約は金銭消費貸借ではなく債権譲渡契約であるといいやすくなります。
債権譲渡通知が行われなかったのは、原告の希望によるものである
本件では、債務者に対する債権譲渡通知が行われていません。原告はこの点を強調して「実質的に貸金契約である」と主張しました。
しかし本件で債権譲渡通知が行われなかったのは、原告自身の要望によるものです。多くの中小事業者がそうであるように、原告も「取引先に通知されて信用を失いたくない」ために、取引先へ通知しない「2社間ファクタリング」を利用しました。
また原告とJ社の間では、原告に回収を委託する「事務委託契約書」も作成されていました。貸金契約であれば、わざわざこのような書面を作成することはないでしょう。
以上のように、債権譲渡通知が行われなかったのは原告の要望によるものであり契約書もきちんと作成されていたことから、裁判所は「本件契約は貸金契約とはいえない」と判断しました。
債務者の情報を考慮して契約の可否が判定されている
裁判所は、本件ファクタリング契約締結の際にJ社が「債務者の状況を審査」したことも判断の要素としています。
貸金契約であれば、審査の対象になるのは借主の信用情報です。売掛債権の債務者の信用情報は審査対象になりません。そうではなく売掛債権の債務者の信用が重要となるのは、契約が「債権譲渡」だからです。
本件で、J社は原告に対し「債務者に関する資料や情報」を提供させていました。たとえば過去の取引状況や直近の売上げ状況、今後2ヶ月の売上げ見込み、月別の入金実績などの資料です。
このことからすれば、やはり本件は債権譲渡契約であり、貸金契約とはいいがたくなります。
J社が回収リスクを負っている
本件で原告は「原告が一方的に回収リスクを負わされたので、本件は債権譲渡契約ではなく貸金契約である」と主張しました。
しかし実際には、契約には以下のように定められており、原告が回収リスクを負う内容にはなっていませんでした。
「債務者の不払いや支払不能などの事情で取り立てが困難となった場合、原告に契約違反行為がなければ原告には責任が及ばない」
この文面からすると、回収リスクを負うのは「J社」といえます。もちろん買い戻し特約などもついていませんでした。
結果として「原告の責任を特に加重するものとはいえない」と判断されました。
よって「原告が回収リスクを負わされた」という主張も排斥され、「本件は貸金契約ではなく債権譲渡契約である」と認定されたのです。
2-2.過払い金は発生しない
原告はJ社に対して「過払い金返還請求」を行いました。
「過払い金」は金銭消費貸借契約が成立するときに「利息制限法」に違反して高額な利息を取り立てたときに発生するお金です。
ところが本件では「そもそも金銭消費貸借契約に該当しない」と判断されています。
よって過払い金が発生する前提がないといえ、原告による過払い金請求は認められませんでした。
2-3.暴利行為に当たらない
本件で原告は「J社によるファクタリング契約は、原告の窮状につけ込んだ暴利行為(不法行為)であり無効」と主張しています。
しかし、そもそも本件契約は債権譲渡契約であり、金銭消費貸借契約ではありません。
原告とJ社との間の債権譲渡契約において割り引かれた手数料率も、通常想定されるものと比べて著しく高いとは言いがたいと判断されました。
J社が原告に対し、著しく不利な条件を強要したり執拗に勧誘して誤信させたりした事情もありません。むしろ資金繰りに窮した原告の方から積極的にJ社へファクタリングを申込み、契約締結に至ったものです。
以上のような事情から、裁判所は本件契約を「暴利行為」とは認めず、原告の主張を排斥しました。
3.本件から学べること
本件のように、ファクタリングを利用した中小事業者が後になって「実質的には貸金契約であった」と主張。過払い金請求するケースが少なくありません。一部の弁護士がこういった考え方をしているのも一因となっているのでしょう。
しかし本件も含め、多くの裁判例ではこうした主張が排斥されています。
ユーザーに一方的に回収リスクを負わせる「買い戻し特約」でもついていない限り、「実質的に貸金契約である」という主張は通らないと考えた方が良いでしょう。
4.まとめ
ファクタリングを利用して、後から「過払い金請求」や「暴利行為」と主張しても認められない可能性が極めて高いのが現状です。余計な裁判費用を負担しないように、この点を理解しておきましょう。
上手に利用すれば、ファクタリングによって救われる企業はたくさんあります。今回の記事を参考に、ファクタリングとうまくつきあっていきましょう。