ファクタリング会社からユーザーへの受領金支払い請求が認められた裁判例
ファクタリングを利用して資金調達を受けておきながら、後になって「実質的には貸金契約なので無効」と主張し始める中小事業者が少なくありません。
そういった企業は、ファクタリング会社との債権譲渡契約を反故にしてしまうケースがよくあります。
つまり債権譲渡時にファクタリング会社から債権譲渡代金を受け取ったにもかかわらず、後で自社にて債権を回収後にファクタリング会社へ代理受領金を支払わないのです。
そうなれば、ファクタリング会社としてはユーザーへ代理受領金の支払を請求するのが当然でしょう。
本件は、このようにユーザーが代理受領金の支払を拒んだことによってファクタリング会社がユーザー企業へその支払いを求めたケースです。裁判所はファクタリング会社の主張を全面的に認め、ユーザー企業へ代理受領金の支払い命令を下しています(東京地方裁判所 令和元年9月12日)。
1.事案の概要
本件の原告はファクタリング会社M社であり、被告は原告から債権譲渡を受けて資金調達した中小企業です。
平成30年3月、被告はM社に対し、ファクタリングによる資金調達を申込みます。
その結果、両社はファクタリング契約を締結し被告はM社へ売掛金の債権譲渡を行いました。
債権譲渡は2回にわたって行われ、1回目は200万円の額面額の債権を160万円で譲渡、2回目は90万円の額面額の債権を70万円で譲渡しました。
債権の回収については、被告自身が行う内容に。いわゆる「2社間ファクタリング契約」です。
M社と被告との間では「債権譲渡契約」と「集金業務委託契約」が締結され、M社は、契約通りに被告へ160万円+70万円の、合計230万円を支払いました。
被告が回収金の支払を拒絶
契約では、被告は自社にて200万円と90万円を集金し、M社へ払わねばならないことになっていました。
しかし被告は「本件ファクタリング契約は実質的に貸金契約であり、手数料(割引額)が大きすぎるので公序良俗に反し無効」と主張。回収した債権をM社へ支払う義務はないとして、回収金の支払を拒絶しました。
被告の計算によると、本件で「200万円の債権譲渡」については年利304%、「90万円の債権譲渡」については年利745%となります。
このように被告がM社から230万円の譲渡代金を受け取っておきながら、一切の支払をしなかったのでM社がやむなく提訴に踏み切ったケースです。
なお本件において、買い戻し特約はついていなかったので、被告が回収不能となった場合にまで被告がリスクを負う内容にはなっていませんでした。
2.裁判所の判断
公序良俗には反しない
裁判所は以下のように認定して被告の主張を排斥、原告による請求を認めました。
被告が回収リスクを負っているとはいえない
被告は「本件では被告自身が債権を回収する義務を負っており、被告が依然として回収リスクを負っている。M社は回収リスクをまったく負っていないのだから実質的には貸金契約である」と主張しました。
しかし裁判所は以下のように判断。被告の主張を認めませんでした。
- 本件では、被告が第三債務者から集金できなかった場合にまで被告自身がM社へ約束した代金を払わねばならない、という取り決めにはなっていない
- 被告が回収に失敗したときの「買い戻し特約」はついていない
- 譲渡人自身が債権回収を行うとしても、債権譲渡契約の本質に反するものではない
つまり被告が全面的に回収リスクを負っているとはいえないことを重視して、「本件は債権譲渡契約である」と認定しています。
手数料は暴利ではない
次に裁判所は、本件が債権譲渡契約であることを前提に、M社の定めた手数料は暴利ではなく公序良俗に反しないと判断しました。
理由は以下の通りです。
- 被告が債権回収に失敗したら、原告には集金できないリスクがあった
- 債権譲渡契約において「2割」の手数料は暴利とはいえない
- 他に公序良俗違反を疑わせる事情はない
- このように、裁判所は本件の契約を有効な「債権譲渡」と認定し、不払い状態になっている被告に対し、約束通り290万円を支払うよう命令をくだしました。
また本件ではもともとの債権譲渡契約において遅延損害金の定めがあったため、法定利率よりも高額な「14.6%」の遅延損害金も付加されています。
3.本件から学べること3つ
3-1.ファクタリングが公序良俗とされるのは特殊事情がない限り困難
本件で、ユーザー企業は「公序良俗違反」を主張して回収金の支払を拒絶しています。
しかしさまざまな裁判例をみるにつけ、ユーザー企業による公序良俗違反の主張が認められるのは相当困難な状況といえます。
多くのケースでは「ファクタリング契約は債権譲渡契約」と認定されてしまうためです。
ファクタリング契約が貸金契約と認められるには「買い戻し特約がついていてファクタリング業者のリスクが0になっている」「全面的にユーザー企業がリスクを負担している」などの特殊事情が必要となるでしょう。
単に「2社間ファクタリングを利用したので自社が回収業務を行う」というだけでは「貸金契約」と認められる事情にはなりません。
3-2.遅延損害金が付加されると高額な支払が必要になる
本件におけるユーザー企業は「本件は公序良俗に反するので回収代金を支払う必要はない」と主張し、回収した代金をファクタリング業者であるM社へ支払いませんでした。
その結果裁判を起こされ、裁判所から遅延損害金14.6%を付加されて支払い命令を下されています。
このように、回収代金を長期にわたって支払わない場合、遅延損害金が高額になる可能性がある殊に注意が必要です。
たとえば本件の場合、ファクタリングを利用したのが平成30年3月、支払い命令が出たのが令和元年9月なので、その間1年半くらいが経過しています。
290万円に1年半の間14.6%の遅延損害金が加算されると、遅延損害金額だけで635,100円にもなります。
つまり本件のユーザー企業は支払拒絶をしたために、本来より635,100円も多くの支払をしなければならない結果となったのです。
裁判をするときには、こういった遅延損害金リスクについても充分考慮する必要があるでしょう。
3-3.仮執行宣言に要注意
さらに本件では「仮執行宣言」がついています。そこで被告が控訴してもM社によって預金や債権、不動産や在庫などを差し押さえられてしまうおそれがあります。
裁判されるとこういった余計なリスクを背負ってしまう可能性が高いので、慎重に対応しなければなりません。
4.まとめ
ファクタリングを利用した場合、買い戻し特約がついていない限りは基本的に「債権譲渡契約」と認定されやすい傾向があります。回収代金を拒絶して裁判になると余計なリスクを背負ってしまうので、くれぐれも慎重に判断してください。