ファクタリング契約が「貸金契約」と認定された事例
資金繰りのためにファクタリングを利用したけれども、後に「ファクタリングは債権譲渡契約ではなく、実質的には貸金契約」であるとして、利息制限法を超える手数料の返還を求める中小企業が少なくありません。いわゆる「過払い金請求」の事例です。
今回は、そうした中小企業による「過払い金請求」が認められた裁判例をご紹介します(大阪地裁平成26年(ワ)第11716号、平成29年3月3日判決言渡)。
1.事案の概要
本件は、原告である中小企業が資金繰りのためにファクタリングを利用して継続的に資金調達をした事例です。
原告は平成25年9月ころ、インターネットで被告会社のファクタリングサービスを見つけました。被告から説明をうけてファクタリングの利用を決定し、平成25年10月から平成26年10月まで、継続的に債権譲渡を行いました。
ファクタリングでは「手数料」が割り引かれるため、債権譲渡した債権額は3791万円であったのに対し、原告が受け取った金額は3299万9439円。
この時点で原告は弁護士に相談し「ファクタリング契約は実質的に貸金契約なので、高額過ぎる手数料は過払いになる」と聞いたと思われます。
そこで原告は弁護士に依頼して、被告に対して「過払い金請求」することに決めました。
また最終的に原告が被告へ支払うことになっていた313万円は、未払いのままでしたが、こちらについては支払うことはありませんでした。
2.原告の主張内容
原告は裁判において、以下の主張を行いました。
本件ファクタリング契約は実質的に貸金契約である
本件ファクタリング契約は債権譲渡契約ではなく貸金契約なので、利息制限法を適用すべき、と主張しました。
利息制限法に引き直し計算すると、491万6209円が過払いになっている
本件ファクタリング契約は暴利であり、公序良俗に反して無効である
本件で設定された利率は異常に高く暴利なので、契約は公序良俗に反して無効であると主張しました。
最終的に未払いになっている313万円の支払い義務はない
そもそも過払い金が発生している状況であり、公序良俗に反して契約自体が無効なために残債313万円の支払い義務は残っていないという主張です。
債権譲渡登記の抹消請求
本件では被告により債権譲渡登記が行われていましたが、こちらについては理由がないので抹消するよう求めました。
3.被告による反訴
上記の原告による提訴を受けて、被告側は以下のように反論しました。
- 本件ファクタリング契約は債権譲渡契約であり、利息制限法は適用されない
- 公序良俗に反する事情はない
- 最終的に未払いになっている313万円の支払を請求する
被告としてはあくまで有効な債権譲渡契約を前提とするので、最終的に未払いになっている313万円の支払いも求めました。
4.裁判所の判断
以上の原告と被告それぞれの主張に対し、裁判所は以下のように判断しました。
本件契約は実質的に金銭消費貸借契約である
まず本件ファクタリング契約は「実質的に金銭消費貸借契約」であると判断されました。
理由は、被告であるファクタリング会社が債務不履行や不払いに関するリスクをほとんど負っていないとされたことです。
本件では買い戻し特約はついていなかったようですが、一審は「被告がリスクを負っていない」と判定しました。
被告ファクタリング会社による「本件は債権譲渡契約である」という主張は排斥され、原告の主張が認められました。
利息制限法により、被告には原告に対する過払い金返還義務がある
本件のファクタリング契約が貸金契約であれば、利息制限法が適用されます。
そこで取引を利息制限法に引き直して計算し、被告は原告が払いすぎた過払い金を返還しなければなりません。
過払い金の金額
原告は、過払い金の金額を「491万6209円」と計算していましたが、ここには以下のような費用が含まれていました。
- 調査料
- 登記費用
- 振込手数料
- 交通費
こういった費用は「利息」ではないので、過払い金には含まれません。
そこで裁判所は上記のような費用を差し引き、被告が返還すべき過払い金については467万4182円と認定しました。
公序良俗には違反しない
原告は本件ファクタリング契約が公序良俗に反して無効と主張しましたが、裁判所は以下のように述べてこの主張を排斥しました。
- 本件で設定された手数料は「暴利」といえるほど高利でではない
- 被告が貸金業登録をしていなかったとしても、そのことをもって公序良俗違反とはいえない
原告による「公序良俗違反なので契約そのものが無効になる」という主張までは認められませんでした。
被告の反訴について
被告は原告に対し、未払いの313万円の支払を求めていましたが、本件ではすでに原告が被告へ利息(手数料)を払いすぎた「過払い」の状態になっており、残債務がありません。
そこで裁判所は被告による未払い金の支払い請求は認めませんでした。
結果的に裁判所は被告に対し、過払い金として467万4182円の支払いを命じました。
5.控訴審の帰結
以上のように、本件では原告による過払い金請求が認められましたが、被告は納得せずに控訴を提起(平成29年(ネ)第959号)。
控訴審では、以下の内容で「和解」が成立しました。
被告は原告に233万7091円を支払う」
つまり一審で認められた金額の半額を支払うことにより、お互いが「痛み分け」の解決をした、ということです。
おそらくは、高等裁判所から両社へ和解の勧告があり「半額ずつということで了承してはどうか?」と勧められたのでしょう。
6.本件から学べること
本件では、1審判決で「ファクタリング契約が実質的に金銭消費貸借契約」と認定されています。
理由は「ファクタリング会社が債務不履行や不払いリスクを負っていないこと」。この判断の枠組みは、他の同種の事案でも広く用いられています。ファクタリング会社がリスクを負わずすべてのリスクをユーザー企業へ負担させているなら、高額な手数料を取ることを認められない、という理由です。
つまり法律の世界では「ファクタリング会社がリスクを負っているかどうか」により、ファクタリング契約が貸金契約か債権譲渡契約かが判定されるといってよいでしょう。
ファクタリング会社がリスクを負わないとされる典型的なパターンは「買い戻し特約」がついている場合ですが、それ以外にもファクタリング会社のリスクが軽減される状況はありえます。
本件でも、詳しい事情が不明ですが、一審では「ファクタリング会社がリスクを負っていない」と判定されました。