買戻特約がついていてファクタリング会社が敗訴した裁判例
東京地方裁判所 令和元年(ワ)18683号、令和元年(ワ)25992号
供託金還付請求帰属族確認請求等事件、同反訴事件
ファクタリングが行われるとき「買戻特約」がついていると「実質的には金銭消費貸借である」と認定され、ファクタリング契約が無効と判断される可能性が高くなります。
買戻特約とは、利用会社が後に譲渡債権を買い戻すとする特約です。
本件はファクタリング契約に買戻特約がついていたため、ファクタリング会社が敗訴した事例です。
以下で経緯や裁判所の判断内容をみていきましょう。
1.経緯
本件の原告はファクタリングを行っている経営コンサルタント会社、被告は建築管理会社です。
4回にわたる債権譲渡契約
本件では、4回にわたって被告が原告のファクタリングサービスを利用しました。
- 1回目 額面150万円の債権を115万円で譲渡、原告は被告へ事務手数料2万円を差し引いて113万円を交付
- 2回目 額面50万円の債権を30万円で譲渡、原告は被告へ30万円を交付
- 3回目 額面135万円の債権を80万円で譲渡、原告は被告へ80万円を交付
- 4回目 額面110万円の債権を58万円で譲渡、原告は被告へ58万円を交付
上記それぞれについて「買戻特約」がついており、被告は期日までに額面額を払って債権を買い戻すことができると規定されていました。
いずれの契約についても債権譲渡の通知が猶予され、第三債務者への通知は行われませんでした。
被告による買戻し不能と供託
被告は、1回目と2回目の譲渡分については、特約のとおりに合計200万円を原告へ支払って買い戻しました。しかし3回目と4回目の合計245万円分については、期日までに買い戻しませんでした。そこで原告は3回目と4回目の債権について、第三債務者へ債権譲渡通知を送りました。
被告は「本件ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約であり無効」と主張したため、第三債務者は原告と被告のどちらが真の債権者か判断できなくなり、債権者不確知を理由に上記3回目と4回目の譲渡債権の弁済分を供託しました。
2.当事者の主張
原告の主張
原告としては「自社が真実の債権者であるから、供託金還付請求権は自社にある」と主張しました。
また本件では、被告が「ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約であって、公序良俗に反し無効」と主張したために、第三債務者が「債権者不確知」として供託せざるを得なくなった経緯があります。
このように、被告が第三債務者を混乱させて供託せざるをえない状況に追い込んだため、原告に労力や時間がかかったので24万5千円程度の損害を負ったとして、被告へ24万5千円の賠償金の支払いを求めました。
被告の主張
被告は「本件ファクタリングは実質的に金銭消費貸借契約であり、1回目~4回目のファクタリング契約はすべて無効」と主張しました。
契約には買戻特約がついており、被告が期日までに買い戻すことを予定していましたし、第三債務者への通知も行われず、客観的にみると金銭消費貸借と何ら変わらないためです。
本件ファクタリングの手数料を利息におきかえると、以下のように極めて高額でした。
- 1回目…年率478%
- 2回目…年率2028%
- 3回目…年率473%
- 4回目…年率861%
このような高金利の貸金契約は明らかに利息制限法、貸金業法、出資法に違反して無効です。また原告は実質的に貸金業を営みながら貸金業登録を行っていないので、無登録営業にもなります。
被告としては、本件のファクタリング契約はすべて「公序良俗に反し無効」と結論づけました。よって被告が原告に支払った200万円(1回目の譲渡と2回目の譲渡の買い戻し分)の返還を請求し、3回目と4回目の分の供託金還付請求権は被告にあると主張しました。
3.裁判所の判断
裁判所は以下のように判断し、原告の主張を全面的に排斥して被告の主張を認めました。
本件ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約
まず、本件のファクタリング契約は「実質的に金銭消費貸借契約」と認定されました。
理由は以下の通りです。
買戻特約がついていた
本件では、被告は原告へ譲渡した債権について「額面額を払って買い戻せる」という買戻特約がついていました。
「取引先へファクタリングの利用を知られたくない」という被告の事情で第三債務者へは債権譲渡の通知が行われませんでしたが、期日までに買い戻せば第三債務者へ通知しない約束になっていたのです。
こういった状況であれば、被告としては期日までに債権を買い戻さざるを得ない立場になります。これを実質的に評価すると、借りたお金を期日までに利息をつけて返さねばならない金銭消費貸借契約と同様です。
表明保証していた
契約に際し、被告は原告に対し、以下のような事情を「表明保証」していました。
・第三債務者において債務不履行となるべき事情がないこと
・譲渡債権に解除や相殺などの抗弁事由もないこと
表明保証違反があれば、原告側から解除や損害賠償請求できる内容でした。
このような状況では、原告はほとんど債権の回収不能リスクを負いません。
以上のような事情により、本件ファクタリング契約は実質的に金銭消費貸借契約と認定されました。
200万円は不当利得となる
本件のファクタリング契約が金銭消費貸借契約であれば、設定された手数料は利息制限法を大幅に超える違法なものとなります。また原告は貸金業登録もせず違法営業していることになってしまいます。
不法な契約である以上、本件契約はすべて公序良俗に反し無効と判断されました。
被告が原告へ支払った200万円は不当利得となり、原告は被告へ返還しなければなりません。
原告が被告へ支払った143万円は不法原因給付となる
原告は3回目と4回目の契約の際、譲渡代金として被告へ合計143万円を支払っています。
しかしこれは、不法な契約にもとづいて交付したお金なので不法原因給付となり、原告は被告に対し、取り戻しを請求できません。
被告が原告へ受け取った143万円を返還する必要はないと判断されました。
供託金還付請求権は被告にある
原告と被告の債権譲渡契約が無効となる以上、真の債権者は被告であり、供託金還付請求権は被告にあると判断されました。
原告から被告への損害賠償請求も認められない
原告は被告へ債務不履行にもとづき24万5千円を請求しましたが、被告の主張には理由があります。また、そもそも原被告間の債権譲渡は無効なので原告の主張に理由がなく、請求は認められませんでした。
4.本件から学べること
本件ではファクタリング契約に「買戻特約」がついていたことが主な原因となり、ファクタリング契約が「実質的に金銭消費貸借契約」と認定されています。
買戻特約つきのファクタリング契約は違法です。
この事件で敗訴したファクタリング会社は、いわゆる「給与ファクタリング(闇金融)」を行っており、後に代表者が貸金業法違反で逮捕されています。
報道資料によると、約1億円を給与所得者へ貸して6000万円を取り立てるという悪質な手口であったということです。
もしも中小企業が悪質なファクタリングを利用してしまったら、自社の首を絞める結果となるのはほぼ確実といえます。
ファクタリングを利用するときには、買戻特約がついていないことはもちろん、その他の方法によっても債権の回収不能リスクを譲渡企業へ転嫁させることのない、クリーンな運用をしているサービスを選ぶ必要があります。今後の参考にしてください。